めいど in Heaven


21th 22th 23th 24th 25th


21th
登場人物 想像しないでくれ

 部屋の空気が一瞬にして凍り付いた。

 そいつは……全てが違っていた。

 ひらひらな服。ひらひらなスカート。ひらひらなエプロン。ひらひらな髪飾り。
 これだけなら、彼らが今対峙している化け物と一緒だ。これだけなら。
 頭には髪飾りだけではない。三角形の物体がふたつ。普通の人間には、絶対に存在しえないモノ。
 角? いや、もっと幅の広い……動いている。ぴくぴくと。わかった。猫の耳だ。
 当然、それと対になる物体……人と猫とを分かつ、もうひとつの特徴も、ピンと直立し、存在を主張している。
 顔を見る。特徴的なのは、メガネ。一般のそれより、ややおおきめなもの。もはや単なる視力矯正機具とは、一線を画するような存在感を、周囲にただよわせている。
 服装にしても単なるメイド服ではない。メイド服にあらざる色彩。ピンクを主体とし、スカートには星がちりばめられている。
 肩に乗っているのは……黒猫だろうか。そして手には……星をかたどったステッキ?

 でもその顔は……

「……ま……」
「まさか……」
「……」
「一体……何があったんでしょう?」

「もう許さないでございますだっちゃにゃ!!!」

 ……どこの国のものか全く不明な言語を ―― 信じたくないことだが顔を見た限りそうとしか、見えない ―― その男、酒神了はのたもうた。


22th
登場人物 最終決戦直前の事情説明と言う奴だ

「結論を、言いますと」

 めいどさん修行だか破壊行為だかをしていた酒神了のもとに現れたグール夫妻の顔は、晴れやかと呼ぶには、いささか問題があった。

「無理でした〜」
「!?」

 アーロンの言葉に凍り付く酒神了。フィーが続ける。

「ネオ・フェチスユートコに行っテデータ取って来ないト、元に戻す方法、わからないノデスッ!」
「なら安心じゃない! あの4人がうまくやってくれるわよ」
「……それもそうなんですけどぉ……人任せで待っているほどぉ、私も悠長ではいられないのでぇ……」

 まだメイド口調の抜けない酒神。しかし。

「そんなこと言って、逃げるつもりなんでしょ。メイド修行から」

 当たりであった。さすがメイド長リィン、伊達に酒神了と長年の付き合いではない。

「それに、今行ったって、ど〜せ役にはたたないでしょ、その、なんだっけ?『どじっ娘めいどさん属性』ってのが、あるし」
「ぐっ……」

 正論である。だが。

「それなんですが〜」

 グール夫妻もメカの天才と呼ばれるだけのことはある。転んでもただでは起きない。

「その、何とか属性を取り除くまでなラ、どうにかなりますデス!」
「!! それは、本当ですかぁ?」
「ええ……ですが……」
「なんでも構いません〜! そんなのがあるのでしたらぁ、どんなものでも喜んでお受けいたしますぅ」

 ふたつ返事で飛びついた酒神了。

「……二言はないですね?」


「……やっぱりぃ、やめてぇ、いいですかぁ?」


23th
登場人物 もうちょっと事情説明だ。想像したい事ではないが

「……やっぱりぃ、やめてぇ、いいですかぁ?」
「二言ないって言ったでしょ」

 ……アーロンの説明。めいどさん属性自体を除くことは、できない。だが「他の属性」を付与することにより「どじっ娘属性」を、中和することなら、できる。要するに、だ。

「で……ねこみみとか魔法少女とかぁ〜、そういうのを〜、くっつけるのですかぁ?」

 前々回のような格好になっちまうわけだぁね。

「イヤですぅ……そんなくらいなら、ここで待ってますぅ……」
「ワガママ言わないのっ」
「どうしてもって言うのならぁ……暴れますよぉ」

 皆が凍りつく。

「床に転がって両手足ぱたぱたさせて跳ね回るですぅ。いいんですかぁ」

 ひっでぇ脅迫。もはや何か大事な物を捨てたか酒神了よ。
 確かに、どじっ娘属性を持っているとはいえ、パワーだけはいまだ、健在である。それは一連のめいど修行で、明らかとなった。単純に暴れるだけで、十分な脅威と、なる。
 もしそれを実行されたら、屋敷に多大なる損害を及ぼされるのは、言うまでもない。が、それ以上に、周囲の忠誠心を大幅に下げる原因と、なるであろう。
 それでもまあ、リィンとかならまだしも、お子様のわがままで通る。他の人間、例えば妹の神谷純などがそれを見たら……到底、それは容認できる事態では、ない。
 暴れさせるわけにはいかない。意識的にか無意識のうちにか、それは非常に効果的な脅迫で、あった。
 このまま酒神が本来なら男にあるまじき二言を通せると思った、その時。

「あらあらあらあら、いけない子ねぇ」
「男が一度言ったことなら守らないとねっ♪」
「!!??」

 酒神了が唯一恐れる女性。いや、唯一ではないな。唯二とでも、呼ぼうか。
 そして、家にいるのであれば、彼女らの登場は、想定してしかるべきで、あったのだ。

「こ、これは魅夜様に炎様……」
「そんなにかしこまらないでもいいのよリィンちゃん。それより、何やらおもしろそうなことやってるのねえ」

 了の実の母、酒神魅夜。そして……

「せっかくだし、何かできること、ないかな?」

 了の妹、神谷純の母 ― 血縁上は、酒神了の叔母に当たる ― 、神谷炎。

「そ、その目……何たくらんでんだよ!!」

 思わずめいどさん口調が元にもどる了。

「あらぁ、母さんに向かってその口の利き方はないでしょ」
「お仕置きが必要ね」

 ……さすがの酒神了といえども、このふたりに抑えられてはどうしようもない。
 かくしてアーロン&フィーの「研究成果」を食らう羽目になり……


「ぜぇぇぇぇったい、ゆるしませんことですわ、ボク怒ってるんだよ、覚悟はよろしゅうございまして?」

 ……全ての怒りをネオ・フェチスにぶつけることにしたわけであった。


24th
登場人物 で、やっと本筋に戻る

 竜虎相討つ!

 と、今の状況を表現してしまって、果たして良いものであろうか。
 大体にして。酒神了と相対して竜虎と呼びうる者など、そう簡単に出現するものではない。

 ……本来の酒神了であるならば。

 だが。
 今の状態であるならば、まさしく竜虎相討つのキャッチが、ピッタリくる。
 めいどさんへの愛(?)と欲望が、鍛えられし肉体とコスチュームをもって究極までに凝縮された物体と。
 めいどさんへの愛はともかく、そのオタクキマイラとでも呼ぶべき外見が極限までの激怒と合わさった物体と。

「オーラがふたつ、激しくぶつかり合っている……」

 幸運にも、彼の上司の姿を見ることのできないジェリドがつぶやく。

「……ドス黒い渦と……何とも、表現しがたい極彩色の渦が……」

「ふっふっふ」

 ラスボスが ―― いい加減名前付けてやれよ、と、自分でも思うが、まあ、いいや ―― 不敵な笑みを浮かべる。

「いいザマだなぁ酒神了、愉快、じつに愉快だ。わあっはっはっは」

 何がそんなに愉快なのかは知らないが、いきなり豪快な笑い声をあげる。

「ぷうっ」

 ほっぺたふくらませてぷんむくれな酒神。成人男性がやってもあまりかわいくない………はずなのだが、妙に似合ってる気がしないでもないのは、服装その他の賜物か?

「ぶっ殺しちゃうもんねっ」

 正面から突っ込む……が。

「……いけません!」

 アンディが叫ぶ。これは先ほど、ジェリドがやられた時と、全く同じ状況だ。
 そしてその後の展開はもちろん……

『ご主人様♪ おやめくださいませっ♪』

 めきっ。
 酒神の前蹴りが、まともにラスボスの顔面を捉える。前のめりに倒れるラスボス。
 ミニスカートなのに、それを忘れて足を前に思いっきり上げたのは、女装になれてないせいか。あ、おぱんちゅ見えた。ちなみに絵柄はくまさんである。

「を〜っほっほっほっ」

 高笑いを上げて、いつの間にか履いていたピンヒールでラスボスの頭をぐりぐりと。

「このあたくしが! めいどなんかに欲情すると思って? めいどなんてのは下僕よっ下僕なのよっ。下等人種なのよっ。 あたしはその下僕を使う立場にあるのよっ。下僕はご主人様に尻尾ふるための存在なのっ。女王様とお呼びっ! を〜っほっほっほっほっほっほっほっ!!!」

 ぐりぐりぐりぐり。

 ぴしっ。
 『奴等』4人は、何か強固な物に亀裂が入る音を、確かに聞いた。
 アンディが何回か聞いたのと、全く同じ音である。いや、これまでより、はるかに大きい音だったかもしれない。

「……そうでした」

 どうにか衝撃から回復したアンディ。さすがに若い分、適応力も高いのか。

「確かに、めいどさんを実際に周囲に置いている身としては、そういうものなんでしょうね……」

 全ては終わったかに見えた。
 だが。
 ぴく。
 踏みつけられたまま二度と動かないように見えたラスボスが……

「……まさか……」


25th
登場人物 意味深な引きだが、所詮はフェチである。

「……まさか……」

 思いっきり踏みつけている酒神了の足を押しのけ、頭が上がる。

「……貴様……」

 ラスボスの声が……明らかに震えている。

「……めいどを……」

 がばっ。

「雇ってると……言うのかぁ!!??」

 いきなり起き上がった。ラスボスの頭に足を載せていた酒神、足をはねられて派手に転倒。もちろんぱん・つー・まる・みえ。

「許さん……許さんぞぉ……酒神了。我々にとってめいどとは、どんなに憧れつつも、決して手が出ないもの……」

 なんだか知らないが怒っている。

「いわば夢の世界の代物、だからこそ、我々はそれに憧れ、欲求を深くする……」

 全身からドス黒いオーラが立ち上っている。もはやジェリドでなくても、分かる。

「それを……貴様は……雇っていると……」
「大半は住み込みや。どや、うらやましいやろ」

 なぜに関西弁。しかも怪しげな。

「……」

 ぷち。

「ゴォォォォォロォォォォォスゥゥゥゥゥゥ」

「ま、まずい!」
「ら、ラスボスのパワーが目に見えて増大してやがる!」
「雷電の次は富樫か虎丸ですか?」

 この空間内において、めいどフェチの能力は格段と増加する。めいどさんへの愛が強ければ強いほど、フェチスも強くなる。
 そして、今やラスボスの怒りは、自身の強さを極限状態にまで高めるまでに至らしめていたのだ。

「今や……俺の怒りは兆億百千万光年!!! 貴様などぉぉぉぉぉぉっ」

 一直線に突入するラスボス。

「これがめいどさんへの愛だぁぁぁぁぁぁ冥土拳奥義愛と哀しみのぐぅぅぱぁんちぃぃぃっっっ」

「……それがどうした」

 両者が交錯する。
 閃光。そして轟音。


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夢ノ宮奇譚は架空の物語であり、そこに出てくる人名、組織、その他は実在するものとは一切関係ありません。

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