めいど in Heaven


26th 27th 28th


26th
登場人物

 一瞬ののち。

「俺の怒りは……無限大だ」

 完全に……それはもう見事なほどこの世から跡形も無く消え去ったラスボスと、仁王立ちの酒神が、そこにあった。

「あわわ……」

 口から泡を吹いて驚くディック。やっぱり虎丸だ。
 だが、泡を吹きたくなる気持ちも分かる。驚いているのは、大なり小なり、皆、一緒なのだ。

「私、坊ちゃんにお仕えして二十数年になりますが……正直、これほどの破壊力を出した所は、そう何度も見るものでは……」

 汗を拭く迅。

「……社長の能力もさることながらこの場合むしろ……」
「何か知ってるのか雷電?」
「……同じ台詞を2度も使うのはどうかと思うが」
「……失礼。」
「それに私は雷電よりは飛燕だ」
「……それはどうかと」

 では改めて。

「どのようにお考えですかジェリドさん?」
「私は、この空間に原因が……」
「ストップ」

 次の台詞は大体予想できた。それでもなお、口には出してほしくないものであった。
 雷電に説明されるまでもなく、誰もが、とあるひとつの恐ろしい考えに至っていた。
 酒神了に付与されていた「めいどさん属性」。そして、めいどさんへの愛と欲望によってパワーが増幅されるこの空間。
 めいど属性を媒介とし、酒神了の無限大の怒りが彼のパワーを増大させたのだとしたら……

「……もう、戻れないのですか……」

 アンディのつぶやきは、酒神のみに向けられたものではなかった。
 自分の、いや、その場にいる4人の中にも、何か二度と消えない感情が、生まれているのではないか。そんな気がした。


27th
登場人物

「うおおおおおおお」

 ラスボスを瞬殺したといえ、いまだ酒神の怒りは収まらず。
 暴れまわった結果……廃ビルはすっかり、瓦礫の山と化した。

「これで……」

 アンディがつぶやく。

「終りましたね……」
「……ああ……」

 夕日をバックに吠える酒神の姿にモノローグが流れようとしたその時。

「イイエ。まだ終ってませんデス」
「へ?」

 声の方を見ると……待機していたはずの、アーロン&フィーのグール夫妻。そしてリィン。

「あ〜あ、派手にやっちゃったわね、これは。で、見つかったの?」

 先発隊の4人、顔を見合わせる。

「見つかったって……何のことでしょうか?」
「あ、そっか、あんたたちは知らなかったんだっけ。じゃ若……」

 酒神了、固まっている。

「……見つかってないみたいね、その様子だと」
「あの……どういうことなのでしょうか?」

 溜息つくフィー。

「……しょうがないな、説明したげよか。」


「つーこと。つまり、坊ちゃんは、どうにもなんないって、こと」
「つまり、元に戻すためには……」
「そ。このガレキの山を、ぜ〜んぶ、ひっくり返さないと」

「あのぅ……」

 アーロンに声をかける酒神。一縷の望みを、かけて。

「ほんとうに……どうにか、ならないのですかぁ……?」
「……」

 黙りこくるアーロンとフィー。時として、沈黙は何よりも、雄弁に、物事を語る。

「そんなぁ〜! も〜、チョ〜きにくわな〜いっ! チョベリバってカンジぃ〜!」


 酒神了が、元に戻るのに、さらに3日の時を必要としたという。


28th
登場人物

 事件は終った。
 実行犯が誰だったのか。そして、壊滅させられたネオ・フェチスの連中がどうなったか。それは筆者にもわからない。できれば想像したくもない。
 まあ、簡単には死なせてもくれなさそうなことぐらい、想像はつくけど。
 今回壊滅した組織は、ネオ・フェチスの末端にしか、過ぎない。それは皆が知っている。
 が、とりあえず、目の前の脅威は去った。とりあえずは、それでいいじゃないか。

 そして一週間が過ぎ、皆が事件のことを忘れようとしていた、そんな時……

「りょ〜おちゃんっ」

 声に振り向くと、そこに立っていたのはふたりの女性。

「ね〜え、了ちゃぁんっ」

 酒神魅夜。そして、

「お願いあるんだけど〜♪」

 神谷炎。ふたりとも、何かを後ろ手に隠している。

「な、なんだよっ。お、俺は嫌だぞっっっ」

 既に逃亡体制に入っている了。

「そんなこと言わないで、ね」
「じゃああああんっ」

 隠していた物を見せるふたり。

「あ、アンミラに……そっちはナースっ、着ない、俺は着ないぞそんなのっ、なんで俺がそんなのをっ」
「だって、ねえ……」
「かわいかったんだもん、とっても♪」
「やぁ〜め〜てぇ〜くぅ〜れぇぇぇぇぇぇもう……もう……めいどはこりごりですぅぅぅぅっ!!!」


「酒神了よ……」

 なぜか高いところからこの風景を見ている影がひとつ。

「今回の事で貴様は、妄想戦士として、大きな成長を遂げたであろう……」

 誰も聞いてないのにひとりで語っている。

「吾輩は……今こそ貴様に送ろう! 貴様にこそ、この称号は相応しい!」

 目をカッと見開く。

「マスター・オブ・フェチの称号をッッッ!!!」

 ……かくして怪しげな道への第一歩を見事に踏み出した酒神了に栄光あれ!!

「踏み出してなんかねえっっっ」


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夢ノ宮奇譚は架空の物語であり、そこに出てくる人名、組織、その他は実在するものとは一切関係ありません。

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