めいど in Heaven


16th 17th 18th 19th 20th


16th
登場人物 大の男四人……ムサ苦しいなぁ

 酒神了がメイド修行をしている頃。
 攻撃部隊、すなわちアンディ、ディック・ベイカー、ジェリディック・トゥルーマン、闇乃部迅。
 彼ら4名は「ネオ・フェチス」のアジトに向かう途中に……

「こ、これは……」
「……最近のはすごいぜ……」
「……」
「……こういうのが最近の流行りですか……」

 ……途中になかった。

 部屋の中で大の男が4人、テレビにかじりついている。
 しかも、その画面に映っているのは……

「……メイドさんってこういう事も日課のうちなんですか?」
「オレに聞かないでくれ……」
「……他の家のことは分からないが社長は結構……」
「それも健康な証拠ですよ」
「……そういうものですか……」

 誰が言い出したのかは分からない。「敵を知ることが肝要」とかいう話だったのが、いつの間にやら、メイドさんの出てくるアニメの鑑賞会となっていた。しかも、このテの作品は大抵、18歳以上じゃないと、借りちゃいけない奴である。
 当然、画面の中ではめいどさんがご主人様にムチやローソクで痛いことされたり、もうちょっと違う方法で痛いことされている。
 でもってそのうち、最初は悲鳴あげてたのが、段々と甘い声になってくるわけだ。このあたりは筆者にはよく分からぬが。

「こいっつあ……えっちいなあ……」

 画面から目を離さないディック。このメンバーの中ではもっとも感情が素直に出るっぽい。

「ふむ、演技力は中々なようだ。惜しいな、こんな18禁のではなく、もっと万人向けするようなアニメ、いや洋画の吹き替えでも良い。そういう方面に進出すれば、人気出るだろうに」

 意外な反応をしたのはジェリディック・トゥルーマン、通称ジェリド。姿ではなく、声について述べたその理由は、彼が手にする白杖が物語っている。

「最近の若い子は発育がいいですねえ」

 迅の言葉はちょっとずれていた。こんなピンク髪で童顔なくせに出るトコ出ているようなのは世の中にはいない。

「……」

 言語能力すら失われているアンディ君。余程衝撃的だったのであろう。

「……で、結局、この勉強会は何の意味があったのでしょうか?」

 めいどさんの出てくるアニメを見まくり、めいどさんの出てくるゲームをやりまくり、ふと我に返り。

「……」
「……」
「……なんかの役には立つ……んじゃねえかなあ……たぶん……」

 もしかして、非常に無駄な時間を過ごしたかもしれない。極めて考えたくないことだが。

「……陵辱物っていいですねえ……」

 誰だこのセリフは。


17th
登場人物 邪悪なお〜らぢから

 ……その場所までは車で10分。

「……ここだな……」

 一見単なる雑居ビル。しかしその正体は「ネオ・フェチス」アジトのひとつ。そして中には、酒神了をめいどさんに変えた奴がいる。

「ま、とにかく、とっとと突入して、暴れまわって早く帰ろうぜ」

 ディックの言葉は皆の総意のように思えた。相手が誰であれ、簡単にカタがつくと思っていた。
 しかし。ひとりだけ、異を唱える者がいた。

「ここは……危険だ……」

 ジェリドの言葉に皆が凍り付いた。物が見えない彼は、そのかわり、普通の人には見えない物が、人よりもよく見えるという。

「建物の周囲をオーラのようなものが取り囲んでいる……私はこれと同じ空気を知っている……」
「それってもしかして……」

 アンディの脳裏にひとつの単語は浮かび上がった。

「……東京ビッ(以下管理人の独断により規制)」
「そんな名前だったかもしれぬ」

 年に2回、夏と冬に、とある場所でこんなオーラを発する時があるらしい。

「……行ったこと、あるんですか?」

 返事は、なかった。

 ……そして。
 ジェリドの予感は、見事に的中した。

「……それはもう、出ている。違う物を言え」
「何ぃ!?」

 アジト入り口。彼らは早くも、その進撃を止められることに、なる。
 彼らの調査によれば、建物の侵入経路はひとつしかなく、そしてそこには常時、見張り番がついている。
 入れてもらうには合言葉が必要で、そしてそれは「MAID in HEAVEN」であったはずなのだが……

「おい、話が違うじゃねえか!」

 毒づくディック。応えたのは迅。

「なるほど……どうやら私が調べた物は、解答の正解例のひとつに過ぎなかったようですね。そしてどうやら、一度言われた物は、しばらく時間を置かないと、あるいは永久に、合言葉としては使えなくなる、と」
「じゃ、どうすんだ?」
「簡単です。要するに、似たようなものを言えば……」
「おい、早くしろ。合言葉を言え」

 せかす見張り番。そして迅は……

「ELYSION〜永遠のサンクチュアリ〜」
「うむ。通れ」

 ………………

「なるほど。要するにメイドの出てくるゲームなら、なんでもOK、と」

 具体的にどんなゲームだかは自分で調べてください。

「よし、とにかくこれで通れるぞ」

 が。

「待て。貴様らはまだ合言葉を言っておらぬ」
「げ。ひとり1ワードか……よし。『殻の中の小鳥』!」
「うむ、ちと古いが、まあ、よかろう」

 ディックの次はアンディ。

「……『サクラ大戦3』!」
「あれをめいどゲームと呼ぶにはちと語弊あるが……まあ、よかろう」

 最後に残ったジェリド……

「……」

 ばきっ!

「ぐえ」

 ……問答無用で見張り番をしばき倒した。

「……最初っからこうすれば良かったのでは……」

 反論できる者は、いなかった。


18th
登場人物 もう嫌

 ズゴゴゴゴゴ……
 アンディの一撃で、壁はもろくも崩れ去る。それが戦闘開始のゴングであった。
 今や彼らの戦闘意欲は最大値にまで達していた。先ほどの「合言葉の件」で、結果的に彼らがやっていた「事前学習」に、効果があったことが見事なまでに証明されてしまったのである。このままではやばい。いろんな意味で!
 彼ら4人の思いは共通であった。こいつらメイドガイキチは、なんとしても殲滅されなくてはならない。
 酒神了のために。そして何より、彼ら自身のアイデンティティを守るために!
 異変に気づいた雑魚どもが次々と出てくる。1,2,3…たくさん。

「うおおおおおっ」

 アンディの拳が振るわれるたび、片手では数えられない数の雑魚が星となる。

「ラァッ!!」

 ディックの手にしたアサルトライフルが火を吹き、雑魚が金属並の強度を持つ特性硬質ゴムスタン弾に打ち倒される。

「……」

 ジェリドが無言で煙幕を撒き、雑魚が声も立てられぬまま闇の中へ消え去る。

「どうもどうも、すみませぇん」

 迅が手で奇妙な印を組むと、不可思議な電撃やら炎やらが飛び交い、雑魚が一瞬にして良い臭いのする焼肉(炭火焼)に変わる。


 しばらく、場面飛ばす。
 雑魚との戦闘なんて見ててもおもしろくないだろ。
 これが時代劇のチャンバラだったら、1対多数の剣劇は見てて非常におもしろいんだけど。文章にしちゃうと、あまりにおもしろくない。
 当然、こういうのを書ける人は書けるんだろうし、それで人を魅せることも、できる。
 でも私には無理。

「手抜きって言いませんか?それ。」

 言うな。


19th
登場人物 もう限界だ!!

「ふっふっふっふ。よくぞここまで来た」
「……手抜きだ」
「手抜きですね」
「手抜きだな」
「手抜きですねえ」

 だから言うなって言ってるだろ。

「貴様ら、俺を放っておいて何の話をしておるか」
「あ、こっちの話です。気になさらずに」

 完全に存在感を認められてないな。かわいそうに。一応、ラスボスなんだから敬意払ってやんないと。

 場面を飛ばしてしまったので、一応、説明しよう。
 4人は雑魚を殺しながら、んでもって建物を破壊しながら突き進み、ついにとある部屋の前に達したわけであるが。
 ジェリドが「中から最大級の邪気を感じる」とか言ったから、たぶん「当たり」なんだろう。
 で、入ろうとしたら、突然声がしたわけだ。

「貴様ら、酒神了の使いっぱか。それなら……」

 言い終わる前に扉を蹴破るアンディ。

「あ、こら、人の話を聞け、後悔するぞっ」
「どりゃああああああ」

 ボス(?)の忠告(??)を無視し、突撃を敢行した4人……

 ……そして彼らはおおいに後悔しくさった。

「「「うげええええええええ」」」
「……」

 中にいたのは……無精ひげの男。スキンヘッド。その筋肉はナチュラルなトレーニングによるものであることが、服の上からでもすぐに分かった。パワーとスピードを兼ね備えている。ラスボスらしく、相当の手練れであることは、一目でわかる。
 しかし、その服装が……

「あ、あなたは……」
「ヘンタイかああっ」

 やけにひらひらのおおい上着。
 下もひらひらの多いスカート。
 その上からひらひらの多いエプロン。
 頭にはひらひらの多い……いまだ名前分からない。

「……どうした、みんな?」

 視力というものを持ち合わせていないジェリドのみが、この異形を前に平然としていた。

「とりあえず……この男が異常なオーラを発しているのは、理解できるとしても」

 目が見えないことが有利に働くことも、時として存在する。

「こ、これはたまらんッッッ」
「……ぐぐうっ……」
「も、申し訳ありませんがジェリド様、その男の処分をお願いして、よろしいでしょうか」

 あとしばらくは戦闘不能であろう。

「ふ。さすがめいど服の魔力! その神々しさに見る者は抵抗する意欲を失わせる! まさにめいどさんこそ最強! めいどマンセー!!」

 もはや反論する意欲すら失った3人。

「……仕方ない……私がお相手をしてしんぜようぞ」

 対峙するジェリドとラスボス。

「ふ。貴様らメ○ラにはこのめいど服の魔力も通じないか」
「放送禁止用語にマスクをかける程度には良識があるようだな」
「ほざけ。だが、これには反撃できまい。食らえっ」

 ジェリドが構える。そして間合いを一気に詰めようとしたその時……


20th
登場人物 帰って良いか?

『ご主人様っ♪』
「!?」

 ジェリドの動きが止まる。

(な、なんだこの感覚は……! この私が……攻撃を……ためらった!?)

 驚いたのは周囲も同じであった。

「い、今の声……」
「あの化け物が出したのか!?」
「氷上恭子に似てましたねえ……」
「……よくご存知ですね……」

 そしてもう一発。

『乱暴なことはよしてください……ご主人様♪』
「!!??」

(……見えた……目の見えない私に……めいど服を着た可憐な美少女の姿が!?)

「危ないっ!!!」

 次の瞬間。

「……!!」
「ふ、この程度か……」

 鳩尾に強烈極まりない一撃を食らい、ジェリドが膝をつく。

「ジェリドさん!!」
「……い、今のはまさか……」

 迅の言葉に、ディックが。

「何か知ってるのか雷電!」
「なんですかそれは?」
「気にするな……続けてくれ」
「……今の動きはまさしく伝説に聞こえた冥土拳、まさか本当に実在したとは……」
「なんじゃそりゃあ!?」

○冥土拳……
 古来より中国においては、暗殺者としてしばしば女性が用いられた。
 非力で、しかも外見からはそれとは見えない女性の暗殺者は、時の権力者らによって重宝されたと言われている。
 彼女らは炊事洗濯などの家事一般を身につけ、使用人として目標の家に潜り込み、有能さをもって信頼を得、目標に近づける立場となったところで隙を突き、一撃のもとに目的を達成したと言われている。
 その際に彼女らが用いた拳法が、相手を確実に冥土に送ると大陸中で恐れられた「冥土拳」であった。
 暗殺者の拳法ゆえ、その正体は長い間、謎に包まれており、後世の創作であるとも噂されている。
 なお、現代において家政婦のことを「メイド」と呼ぶが、それはこの冥土拳の使い手が西洋にも存在したことの証明とされている。
(民明書房「冥土in平分」より抜粋)

「ふ、よくこの名を知っておるわ。まさしくこれこそ、幻と言われた冥土拳である」
「だが……あの拳法は女性が使う技! なぜ貴様が……」
「ふ、愚問だな」

 ラスボスは胸を張った。

「これもひとえに、愛ゆえだ!」

「……歪んでいる」
「こんなのと戦いたくねぇ……」

 どうにか最初の衝撃から回復したらしい3人。しかし、この男の近くにいるだけで、ぶり返しそうだ。
 だが、この男を倒さねば、酒神了に明日はない。たぶん。

「……だから、一撃で、倒す!」

 ディックがアサルトライフルを取り出し引き金を引く。いかな拳法家といえども、一瞬にして蜂の巣になる……

「甘いわっ」

 楯で……いや違う。あれは「お盆」だ! めいどさん必携の、ステンレス製のまるいお盆。
 機関銃の弾丸が、弾かれる。下に落ちる。ただがお盆ごときで防がれる。
 アンディがラスボスの左に回る。それを見て、迅が右に行く。ディックの機関銃と合わせ、3方向からの同時攻撃。
 だが……

「ふっ」

 いきなりラスボスが身を投げ出すような格好でアンディの方に倒れる。身を伏せた形となり、機関銃の弾丸がラスボスの上を抜ける。
 そして……

「ぐはっ」
「……くっ」

 アンディの喉に「お盆」が刺さる。
 迅のボディに、右足刀が刺さる。

「……どじっ娘めいどさん!」

 そう、その時のラスボスの格好は「お盆の上に何か乗せて運んでいる途中にうっかりと足をすべらせて前のめりに倒れるめいどさん」そのものであったのだ!!

「だからって、んな無茶なことがあるかぁ!!」

 結果的にアンディと迅に多大なダメージを与え、ディックの攻撃をかわしたこととなる。偶然にしては出来すぎである。
 そして、狙ってやるにはあまりに強引すぎる。

「……邪気が……」

 ダメージから回復したらしいジェリドが口を開く。

「その男の周りで……渦を巻いている……」

 そしてラスボスが吠えた。

「見たか! これこそが愛だ! めいどさんへの、山よりも高くマリアナ海溝よりも深い、愛のみがなせる御技である!
 めいどさん万歳!
 ビバめいどさん!
 めいどさんマンセー!
 ジークめいどさん!!

「いくらギャグだからって……あんまりだ……」

 アンディの言葉はその場の全てを代弁していた。

「こんなやられ方……ありかぁ!?」

 信じたくないが、このまま全滅するかもしれない。誰もがそう思った時。

 Bagooooom!!

 突如、轟音とともに部屋の一方が、崩れ去る。

「あ、あなたは……!!」


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夢ノ宮奇譚は架空の物語であり、そこに出てくる人名、組織、その他は実在するものとは一切関係ありません。

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