ジーザス・クライスト控え室。
「経絡秘孔に対する電気刺激、準備完了しました」
「『エリクサー』注入準備もOKです」
「各種データ、オールグリーン」
「よし」
全てが順調にいっていた。
このまま行けば、おそらくこの試合で、彼らが望んだ物を見ることができるであろう。
「いよいよですね」
「ああ」
リーダー格の男が、力強くうなずいた。
「みんな聞いてくれ」
全員の視線を一点に集め、語り始める。
「我々はここに『神』の誕生を見るだろう。ハルマゲドンにおいてサタンは滅び、救世主(ジーザス・クライスト)には偉大なる称号がもたらされるであろう」
熱っぽく語る。その口調には、この場にいる全員に響き渡るものがあった。
「勝利者という称号が!」
「ウオオオオオオッ!!!!!!」
XCV控え室。
いつもの通り、彼以外、他に人はいない。
「……ジーザスの試合か……」
それは、自分にとってもっとも憎むべき男の名前である。
無意識に胸のペンダントを握り締める。無意識のうちに出てくる言葉があった。
「……ジョー、アンドリュー、チェスター……」
「披験体」には3つの名前がある。
ひとつは、この世の生を受けた時に親から与えられた名前。幼い時に両親から引き離された自分には関係のない物が。
ふたつめは、研究所において名づけられたもの。自分はそこでXCVと呼ばれていた。
そして、みっつめ。
「……チャーリィ、ヴァレンタイン、ティファニー……」
自分たちが自分で自分につけた名前である。
研究所に対する、それはささやかな抵抗であった。
「実験」の過程で、次々に消耗し、ボロクズのように使い捨てられていく仲間たち。サイキッカーとしての高い能力が、それらのひとつひとつ、その全てをひとつたりとも、忘れ去ることを許さない。
身を引きちぎられるような悲しみとともに。
「……マックス」
そこで名前が止まった。
皆が彼のことを「CAP」と呼ぶ。研究所の奴等も、あの「新聞社の者」とやらも。
そんな名前じゃない。あいつの名前はマックスだ。そして、自分が一番信頼していた男の名前である。
強化人間計画部門との模擬戦の時、マックスは当然のように代表に選ばれた。自分も、それは当然だと思っていた。そして、超能力者の実力を見せつけてくれるものだと信じていた。
(まあ、見てろって。3分で終わらせてくるよ)
そう言って、彼は出ていった。
そしてその3分後、XCVはもっとも信じられない、いや、もっとも信じたくない風景を目の当たりにすることになる。
「……」
もうすぐ、自分が次の次に当たるであろう男が出てくる。
そしてそれは、自分が葬るべき相手である。