歓声の中、少女達は戦場を立ち去る。
戦場だった場所への中央へと、悪魔が悠然と歩いていく。
武道場全体見回し、悪魔はゆっくりと溜息をつく。
「さて、結局敗者復活はならなかったな」
良く響く声。その声に観客は正気に返る。
「そうだ」
「これじゃ誰が出れば良いんだ?」
二度も敗北した者が戦場に立つ事等、誰も許しはしない。
悪魔が口を開こうとした時、空気が揺らめいた。
悪魔へと群がる十数名の男達。
それは、このトーナメントへの選考に入りながらも、出場を許されなかった者達。
それでもこの闘技場へと足を運び、自分が出場する……いや、戦うチャンスを虎視眈々と狙っていた者達。
どのような手段であろうとこの男……「銀髪の悪魔」を倒してしまえば、自分を出さずにはいまい。その計算あっての行動。
多人数が残ったなら、バトルロイヤルでもして倒せば良い。
男達の考えは間違ってはいない。
銀髪の悪魔を倒したのなら、誰一人としてその者の実力を疑いはしない。むしろ、出場を懇願される程に待遇が上がるはずである。
だが、男達はたった一つだけ大きな間違いを犯していた。それは……
ドドドドドドドドド………!!!!!!
数呼吸の間に無数の光弾が機関銃のように降り注ぎ、男達をなぎ倒していく。
男達の間違い。それは、彼等の実力は、悪魔が真に選んでいた男と比べると桁が違いすぎた事。
そう。悪魔は既にこの場に出る者を決定していた。先程の戦いは、この場の優先権を手にし、その者を出場させるための複線に過ぎなかった。
「なんだよ。折角面白くなりそうだったのに……」
悪魔が拗ねたように笑う。
「俺が止めなけりゃ、お前、あいつ等叩きのめすだけじゃ済まなかっただろうが」
光弾を放った男が不機嫌そうに告げる。
自分の行動が悪魔の意志だと解っていても、男はそうせずを得なかった。そして、悪魔が最終的に考えている事は、自分の無意識下で臨んでいた事でもあるのだ。
「あーあ。全部はっ倒しちまいやがって……責任は取れよ?」
悪魔が不敵な笑みを浮かべながら告げる。
「おいおい、俺に出ろってのか?」
悪魔の計算の内と知りながらも、男は分かり切った答えを返す。
「そンだけ咆吼撃ちゃ、丁度良いハンデだろ?」
悪魔は優雅に肩を竦める。
「ま、頑張ってくれや、郭斗」
そう言って悪魔は闘技場の出口へと向かう。
臥龍郭斗は苦笑とも不敵とも取れそうな笑みを浮かべて闘技場へと降りていく。
(この血の疼き。戦場へ立たねーとこの疼きは消えそうにねぇな……)
先程からの戦いを見ていて湧いた感情を、なんとか押さえ込みながら、臥龍郭斗はそんなことを考える。
悪魔が闘技場の出口まで辿り着いた当たりで、一旦足を止め、振り向く。
そこには、この数十分間で倒された男達が、ようやく届いた担架に乗せられている。
「兵共が、夢の跡……か……」
その呟きは、誰に聞こえただろうか?