(……巨大だ……身も心も……)
闘技場に入った出雲一人は身震いした。
巨大で、それでいて均整のとれた体躯。
全身から発散される闘気。それとは対照的に、顔には笑みすら浮かんでいる。
「ほな、はじめよか」
その男……レオン・マクドウェルのそのひとこと。それが戦いの合図であった。
バシイッ!
互いのローキックが交差する。
牽制の一撃。だが、その一撃が、会場全体に響き渡る轟音を生み出す。
一旦、間合いを放す両者。
(強い……)
一撃打ち合って、その予感は確信へと変わった。
相変わらず、微笑みを崩さないレオン。
「もう終わりかいな?」
「……まさか」
戦いは壮絶な打撃戦になった。
互いが相手を蹴る。蹴る。蹴る。防御をかいくぐり、ガードを打ち崩し、打撃を打撃で潰し、とにかく蹴る。
レオンのローキック。
それを飛んでかわし、そのまま身体を反転させて胴体にソバットを撃ち込む出雲。
それを腕で受け、ミドルを撃ち込むレオン。
ガードでもキャッチでもなく、蹴り足に肘を叩き込む出雲。同時に膝を合わせ、上下から挟み込む形になる。「交差法」である。
このままレオンの足を折る……はずであった。
「……!!」
上下からの交差を押し切って、レオンのミドルが出雲にヒットしたのだ。
派手に吹っ飛ぶ出雲。
「……おい、今のは……」
「いえ……出雲さんが自分から飛んだんですよ、ダメージを軽減するために。しかし……」
吹っ飛んだ出雲を追いかけ、突っ込むレオン。
ふたたび連撃がはじまる。
「ノーダメージというわけには……いかなかったようですね……」
もともと、中国拳法の中でも北派に属する出雲一人は打撃がメインの選手ではない。
本来なら相手に密着して、グラウンドをとりたいところなのであるが、レオンの猛攻がそれを許してくれないのである。
「……まずいかも……」
「ん?不安か?土佐ちゃん?」
「……どう、見ます?」
「そうだな、俺が言えるのは……」
相手の蹴りを蹴りで返す。
そんな攻防が、いまだ続いていた。
「出雲を信じろ、それだけだな。ずっと一緒にやってきた奴を信じられんでどうする?」
不利な状況にあり、なお、出雲の目は死んではいなかった。