美味(うま)いんぼ



サーバーダウン腹いせ企画「美味(うま)いんぼ」(上
登場人物 臥龍健斗+α

(どうして……こうなったんだろう……)

臥龍健斗は、改めて自分の格好を見返す。
身に纏うのは、独特の形状な、上下ともに純白の衣服。特徴的な、円筒形の帽子もまた、純白である。
手には刀。短くて分厚い、流線形と直線で構成されている刃に、木製の短い柄。
隣の男が、声をかけてくる。彼もまた、健斗と同じ服装である。

「奴等が来たぜ……」

 ……そして、戦いがはじまる。

・・・・・・

 話は数週間前に溯る。
 JACのミーティングに行こうとしていた健斗が、部屋をひとつ間違えて隣の部屋に入ってしまった。
 これがきっかけであった。

「ん?君も参加者かい?」
「え……あ、部屋を間違えて……」
「なんでもいいや、この際。ほら、早く準備して……」

 そこは、新聞部と料理部が合同で行うイベントのための会議場であった。
 そして、今日ここで、その「主役」とも言うべき人物を選考していたのである。
 健斗は、何も分からぬままに、それに巻き込まれてしまったのであった。

「では、皆さんの目の前に置かれましたコップ6つ。その中の3つにはコーラ、残り3つにはミネラルウォーターが入っています。これらを飲み分けて、商品名を書いてください。」

 そんなの無理だ……そう思いながらも、ついついリキが入る健斗クン。どんなことでも、つい、のめり込んでしまうのは、彼にとっては長所なのか短所なのか。
 そして……

「なんと、6問全部正解した人が2人いました〜ッ!!!」

 誰だ?そんなことができる人が、いたのか?会場の誰もが、そう思っていたことであろう。
 健斗クンも、例外ではなかった……が。

「それは……山尾梶朗!!!そして、臥龍健斗!!!」
「何ィ!?あのグータラ新聞部員の山尾がァ!?」
「臥龍……んな奴、新聞部にいたか?」
「……え!?」

 当てた自分が一番驚いていた。

「どうして分かったんだい臥龍君?」
「あ……どうしてでしょうね……」

 体育会系の部活において、下級生の扱いは厳しい。
 健斗クンについても例外ではなく、毎日のように、先輩の飲むジュースを買いにパシらされていた。
 そして、結構、メーカーにこだわる先輩も少なくない。どうしてそんなにこだわるのか、と試しに飲んでみて……それを繰り返して、いつの間にやら、利き水・利きコーラができるまでになってしまっていたらしい。

「で……山尾君は?」
「その紙に書いたとおりだ」
「何々……『コーラにカビを入れる馬鹿がいる』?どういうことだね?」
「そのコーラは、以前カビ混入騒動で話題になった会社の奴だ。実際、俺が飲んだ奴にもカビの味がして、一発でわかった。」
「……す、すごい!」

 ……おもいっきりいかがわしいが、とにかく、この奇妙なコンビは、白桜学園創立??周年記念企画として行われる「至極のメニュー」作りの中心に立つことになってしまったのであった。

 しかし。
 彼らの行く手に立ちふさがる強力な敵の出現など、誰も予測しているはずもなかった。


部活動挑戦シリーズ「美味(うま)いんぼ」(中)
登場人物 臥龍健斗+α

 数日後。
 記念イベントのために準備を行う白桜学園料理部部室に訪れた者がいた。

「久しぶりだな、梶朗。」
「あ、あんたは……雄山!!!」

 加山雄山。
 高名な料理研究家にして「備蜀(びしょく)高校」料理部顧問。和食の世界においてはもとより、陶芸や芸能界においても権威と呼べる存在である。
 そんなすごい人が、どうして高校の料理部顧問なんかやっているのかは、誰も知らない。

「何しに来た!」
「貴様ごときの未熟な男が至極のメニューを作るなどとたわけたことを言っておるらしいな。」
「未熟だとっ!?もはや俺は貴様ごときに負けはしないッ!!!」
「だったら私と勝負してみろ。今日のメニューは……天ぷらだっ!!!!!!」

 かくして、周囲の人間が全く理解できないうちに、なし崩し的に始まってしまった料理勝負。
 しかも、原作をご存知の方ならこの後の展開は予想できるとは思うが……

「ここにいる高校生6人から、貴様と私がひとりずつ選ぶ。そして、選んだ者に天ぷらを作らせる。その味で勝負だ。」
「おもしろい。受けてたとうじゃないか!」

 どうしてそうなるんだ?本人がやればいいじゃないか……当人以外の誰もがそう思ったが、このふたりの間に入る度胸のある者はひとりとしていなかった。
 まずは梶朗。

「天ぷらのころもを作ってください」

 すると、ある者は材料をそのまま使用し、またある者は冷蔵庫で冷やした材料を使用。
 梶朗の選んだのは、液体窒素で冷やした材料を使用した者であった。
 そして雄山。

「このテープを聞いて、どんなものか理解できた方は手を挙げてください」

 カチャっ。
「テン〜プラノ〜タダ〜シイ〜ツクリカタハ〜」(外国人女性の声で)

 真っ先に手を挙げた人を、雄山は選んだ。

 そして。
「明らかに雄山が選んだ人の方が、うまい天ぷらを作ったぞっ!!!」
「な、なぜだ……」
「ふっふっふ。私が流したのは『コツのいらない天ぷら粉』のCMだッ!!!」
「な、何ッ!?」

 所詮は高校生。下手に技巧に頼るより、いい材料を使った方が美味いものが作れるのである。その事実に気づかなかった梶朗の完敗であった。

「こぉの馬鹿息子があッ!!!こんな程度の事も知らないで至極のメニューなどとは、だぁから貴様はアホなのだあッ!!!!!!」
「お、おのれ雄山!!!」

 言いたいことを言って去っていった雄山。
 怒りと屈辱に震える梶朗。
 結局今回出番のなかった健斗。

 ……そしてついに、決戦の日を迎える。


こいつ誰?
登場人物 ??????

 料理人とは……
 1時間、全力で動き回ろうとも「短かった」と平気で言ってのける体力と精神力の持ち主だ……
 そして奴等の刃物さばき……包丁一本であらゆる物を解体する技術……
 もし彼らが武の道を志していたら、確実に歴史を塗り変えていたことであろう……
 そんな豪の者の中で、健斗の奴がどこまでやれるか……
 楽しみだ……


テスト直前逃避企画「美味(うま)いんぼ」(下)
登場人物 臥龍健斗+α

「わた〜しの記憶が確かならば、ここキッチン殺シアムに……」

 長くなりそうなので、略。
 とにかくである。
 白桜高校創立??周年記念イベントにおいて、白桜高校料理部&新聞部合同「至極のメニュー」と、加山雄山による「最凶のメニュー」の最終決戦が行われることとなった。

 まずは最凶側のメニュー。

「この『最凶のメニュー』には、とにかく金と技術がふんだんに注ぎこまれています。これをまずいと言うやつは人間じゃないッ!!!」

 なんだか良く知らないけど「高価そうな」懐石料理が並ぶ。
 一方、至極サイドのメニュー。

「なんだそれは?ジャンクフードではないか。」

 ハンバーガー、フライドチキン、ポテトチップス……高級感とは縁もゆかりもないような物ばかりであった。

「ふははははは!勝負あったな!」
「雄山!やっぱりあんたは間違っている!なぜなら、貴様が笑ったジャンクフードもまた料理のひとつッ!!!その事実を無視して最凶のメニューを語るなど愚の骨頂ッ!!!!!!」
「ほざいたな梶朗!こうなったら料理の出来で決着をつけようぞッ!」
「のぞむところッ!!!!!!」

 そして審査員による試食が始まった。
 審査員は白桜高校生徒会。

「うむ、まったりとして」
「……まったりとした味のポテトチップスって?」

 そして運命の結果……

「おおおおおお〜っと!なんと全員一致で、至極側だああああああああ〜ッ!!!!!!」
「敗因はたったひとつ、シンプルな答えだ……てめーは高校生の嗜好を知らなかった……」
「うおおおおッ、この雄山が!雄山がああああああッ!!!!!ごふっ!」

 突如、血を吐いて倒れる雄山。

「お、親父!!!!!」
「……ま、まだ私のことを親父と呼んでくれるのか……」
「親父……」
「……料理の心は!!」
「……は、母心!!」
「押せば命の!!」
「泉湧く!!!!」

「「見よ!東方は赤く燃えているッ!!!!!!!!!!!!」」

「ぐはあッ!!!!!!」
「親父ぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!!!!!」

 ・・・・・・

 かくして、ひとつの戦いが終わった。
 おそらく、読者の誰もが、この企画の意味について理解できないうちに。
 そして。
 臥龍健斗の出番は、やっぱり、なかった。


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夢ノ宮奇譚は架空の物語であり、そこに出てくる人名、組織、その他は実在するものとは一切関係ありません。

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