サバイバルゲーム同好会会長・東郷沙天。
彼は、今回発生した一連の事件には関与してはいない。あえて言うならば、部員に対する管理能力の欠如は責められて然るべきなのであろうが。
本来なら騒ぎを起こした一部過激派を引き渡せば、この件は解決するはずであった。が、彼はそうしなかった。
なぜか?
(……私が望んでいたのはこういう戦いだ……)
本来、サバイバルゲームの勝敗において、エアガンはそれほど重要な要素ではない。
たしかに、敵陣営に属する相手に一撃食らわせれば、彼はその場でアウトとなり、ゲームからは除外される。が、普通、それは直接勝敗とは関係ない。なぜなら、大抵の場合、サバイバルゲームの勝敗は、相手陣営に乗り込み「フラッグ」を奪取することにあるのである。
が。「完全決着ルール」と銘打たれて今回採用されたルールには、フラッグは存在しない。互いが互いをただ撃ち合い、先に全滅した方の負け。もっともシンプルにして、もっとも危険なルールである。
(気心の知れたいつものメンバーではなく、相手は本気で自分たちを倒そうとする戦士……)
戦闘スタイルの違いこそはあれ、どうやら彼もまた、格闘家の心を持っていたようである。
(期待を裏切らないでくれよ……)
ともあれ、かくして、休日の学内は、戦場と化した。
背後に強烈な殺気。思わず後ろを振り向く健斗。
T字路となっているそこには、誰もいない。
(……右か……)
殺気はゆっくりと、だが確実に近づいてくる。むこうもこっちに気づいていることであろう。
相手はおそらく、角を曲がった瞬間発砲する。ならばこっちは、それより一瞬早く撃つ。これしかない。
健斗は銃を構え、壁際に寄る。長いようで短い数秒が過ぎる。
そして、相手は角を曲がり……
「……!!」
健斗が銃を突き付けていた相手。そして、健斗が銃を突き付けられている相手。
それはJAC会長であった。
「……危なかったな」
「……ですね」
互いに、苦笑を浮かべる。
危うく、味方を撃ってしまうところであった。その危機を乗り越えたことに、また、相手が敵ではなかったことにより、緊張の糸が解ける。
次の瞬間。
「ぐはッ!」
「!!」
会長の頭から血が吹き出した。
そのまま前のめりに倒れる。
「か、会長!」
「安心しろ、ペイントだ」
いつからいたのであろうか。物陰から出てきたのは東郷沙天であった。
完全に殺気を消していた。JACふたりに気取られず、隠れていたのである。
彼もまた、歴戦の勇者であった。
「い、いや、そりゃ、ペイントなんでしょうけど……」
「大袈裟だな」
「……同感です、我が会長ながら」
言いながらも、健斗も東郷も、それぞれ相手を倒す隙を覗っていた。
と、いっても、相手はサバゲーのプロ。その一方、銃の扱いはシロウトの健斗。そして相手はどうやら、反撃も逃亡も許してくれそうにない。
いまや健斗の命は風前の灯火であった。