郭斗の拳 第二部「健斗に鉄拳?」 其の弐


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郭斗の拳 第二部「健斗に鉄拳?」第21話
登場人物 清和みゆりの友達〜ズ 著 カラス

「さてと。で、どうやって作る」
「まずはこれ。よく撮れてるでしょ?半ストーカーのアイツら締め上げ…じゃなくて、譲ってもらった写真ね」
「これに記事をつけて、レイアウトはこんな感じかな?記事は推測を混ぜて大袈裟にして…」
「タイトルは見やすく、ショッキングに…」

「よし、これで完成ね。張り出しは?」
「今から張ったら、誰かにはがされちゃうかもしれないから、朝一番に」
「OK。それじゃ、この原稿明日までに大量印刷してくる。それじゃ、また明日ね」

 次の日。白桜学園高等部の廊下のいたる所に、この新聞が張ってあった……


郭斗の拳 第二部「健斗に鉄拳?」第22話
登場人物 臥龍健斗 著 でっどうるふ

 臥龍健斗の朝は早い。
 誰よりも早く学校に来て、道場の整備および自主トレに励む。
 新入生としての義務、そして何より、自分のために、で、ある。

 今日もいつも通りに学校に来た臥龍健斗。
 いつも通りの空気、いつも通りの校舎、いつも通りの風景……

 ……ではなかった。

「……なんなのこれ!!!!!!」

 壁に張られていた「新聞」を見て、思わず叫ぶ健斗。
 とりあえず。右を見る。左を見る。もう一回右を見る。
 誰もいない。

 ……びりびりびり。

 むろん、身に覚えのないことだが、余計な誤解を招かれるにこしたことはないのである。

「それにしても……たしか、このテの張り紙って、張り出す前に学校にチェックもらってハンコ押してもらわなきゃならないとか、そういうのないんだっけ?うちの学校って……」

 まあ、とりあえず処分したからひと安心。そう思って改めて廊下を見渡した健斗の目にうつったのは。

「……」

 無数の張り紙であった。
 もはや、はがす気力もなくなった。それどころか、怒る気すらしなくなったらしい。

「はあ……次の柔道が近いってのに……」

 結局、75日の間、耐えることを選んだ健斗君であった。


郭斗の拳 第二部「健斗に鉄拳?」第23話
登場人物 清和みゆり 著 カラス

 清和みゆりの朝は遅い。
 一時間目の授業に遅れる事も多々ある。
 それもしょうがない事と彼女自信も諦めていた。

 今日もまた一時間目の授業に遅れて登校してきたみゆり。
 そして、休み時間になるころには、いつも通りの校舎、いつも通りの風景が、戻っていた……

 白桜学園内のリサイクル処理施設。
 授業に出なかったみゆりはここにいた。
 何がそうさせるのか、例の新聞全てを運んできたみゆりの顔は真っ青になっていた。
 そして、残しておいた一枚の新聞を握り締め……健斗の教室に向かった。

「……健斗くん、少しいいかな…、
 その…………この新聞の事で……
 ……えっと、………聞きたい事が
 …あ、………その…………………
 ………………………………………
 …私、…健斗くんにとって………
 ………………迷惑、だったかな?」

 そう言ったきり、彼女はうつむき、言葉を失い、立ち尽していた


郭斗の拳 第二部「健斗に鉄拳?」第24話
登場人物 イノア・スライサー&フランソワ 著 煉

 少女は、いつものように遅れて登校する。別に彼女が遅いのではない。一緒に登校するべき人物が、マイペース過ぎるのだ。

「もう、また遅刻だよぉ〜」
「ごめんねぇ〜、スライちゃん」
「そう言うならもっと早くしてよぉ」
「だってぇ〜、ワイドショーが面白かったんだモン」
「いくつだよ君……」

 少女達は知らない。自分達がその『ワイドショー』同様のスキャンダルで、ネタにされている事に。
 二人が学校到着したとき、既に一時間目は終わっていた。いつものように、お互いのクラスに向かい、荷物を置く。

「………………?」

 イノアは、学校の風景に微妙な違和感を感じた。他の生徒達の態度が妙によそよそしい。そして……

(壁にセロテープの跡が……何かはってあったのかな?)

 だが、それ以上は考えても解らないため。いつものように二時間目の準備をする。次の授業は移動教室だ、急がなくてはならない。
 しかし、珍しい来客が目に入り。イノアは手を止めた。

(みゆりちゃん? 昨日一緒に作ったお弁当でも持ってきたのかな? でもまだ二時間目前だし……)

 しかし、みゆりは顔面蒼白だ。とてもじゃないが想い人にお弁当を渡すような雰囲気ではない。

「……健斗くん、少しいいかな…、
その…………この新聞の事で……
……えっと、………聞きたい事が
…あ、………その…………………
………………………………………
…私、…健斗くんにとって………
………………迷惑、だったかな?」

 みゆりの言葉は意外なものであった。が、ある程度の事情は呑み込めた。
 つまり、あの二人の微妙な関係を誰かが悪質な形でからかったのだ。二人とも、見ていてあまり気分の良い表情ではない。

「授業は三時間目からだな……」

 イノアは、椅子に座り直して他のクラスメイトが立ち去るのを待った。


郭斗の拳 第二部「健斗に鉄拳?」第25話
登場人物 臥龍健斗 著 でっどうるふ

「……

 ちょうど良かった……
 僕もね、いろいろと、話したいこともあったし……

ちょっと、時間、あるかな?」


郭斗の拳 第二部「健斗に鉄拳?」第26話
登場人物 清和みゆり 著 カラス

「………(小さく頷いている)」


郭斗の拳 第二部「健斗に鉄拳?」第27話
登場人物 臥龍健斗 著 でっどうるふ

「……ありがとう。

 とりあえず……何から話せばいいのかな……
 えと……サンドイッチありがと。おいしかった。」

(違うだろ……もうちょっと言うべきことあるだろ……)


郭斗の拳 第二部「健斗に鉄拳?」第28話
登場人物 臥龍健斗 著 でっどうるふ

「……手紙の返事、まだだったね。

 迷惑などころか、正直言って、うれしかった。
 ああいうのもらうの、はじめてだったし。

 返事だせなかったのは……ごめん。
 手紙書くのって、苦手なもので……

 ……

 ……はっきりさせておいた方が、いいかもしれませんね。

 今……僕には好きな人がいます。
 だから……

 ……ごめん。」


郭斗の拳 第二部「健斗に鉄拳?」第29話
登場人物 清和みゆり 著 カラス

「……………………

 ……そう…なんだ……

 健斗くん、好きな…人いたんだ……

 ごめんね。私…の気持ちばかり押し付けて…

 ………その子と、仲良く…してあげて…ね…………」

 顔を上げ健斗に微笑みを見せるみゆり。
 その頬を流れたものが、床に落ち弾け散る。
 そして、校内に響き渡る鐘の音に押されるように、教室を出ていった。


郭斗の拳 第二部「健斗に鉄拳?」最終話
登場人物 臥龍健斗+α 著 でっどうるふ

 いつもと同じような午後のひととき。
 校舎を出て、校門に向かう影がひとつ。
 少年の名は、臥龍健斗。

 あれから数日がたった。
 一時期、学校を賑わせた「新聞」も、すでにその存在自体、忘却の彼方へと消滅しつつあった。
 結局、誰がどんな目的で、あんな事をやったのか、わからずじまいであった。
 だが、もはやどうでもいいことである。

 清和みゆりとは、あれから会っていない。それどころか、姿を見掛けることもなくなった。
 休学している、などという話も耳にした。

 ほんの一瞬とはいえ、ふたりの人生は確かに交錯していた。
 これが、互いにとってどのような意味を持つのか、それは誰にも分からない。

 みゆりが最後に見せた表情が、脳裏に浮かぶ。
 あんなに悲痛な顔を見たのは、むろん彼の生涯において初めての事であった。
 あの時の自分の決断が間違っていたとは思わない。それなのに、これほどに胸が痛むのはなぜであろうか?
 単なる同情、感傷と人は言うかもしれない。あるいは、心の奥底で後悔しているのかもしれない。

 それは、例えば洋服のボタンをひとつ掛け間違えた程度で、容易に変化しうる物だったのかもしれない。
 あるいは、生まれる前から決っている、絶対不変のものかもしれない。
 人はそれを、運命と呼ぶ。
 それを信じる者もいれば、鼻で笑う者もいる。

 どっちにしても、後戻りはできない。
 前に進むことしか許されていないのである。
 脳裏に浮かんだ顔を追い払う。

 そんな事を思いながら校門にさしかかった、その時。

「健斗君!」

 こちらの返事もまたず、飛んでくる。

「一緒に帰ろ!」


 そして、いつも通りの日常がやってくる。
 これまでの日常とは、ほんのちょっとだけ違う、今この一瞬だけの「いつも通り」が。


〜郭斗の拳 第二部「健斗に鉄拳?」完〜


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夢ノ宮奇譚は架空の物語であり、そこに出てくる人名、組織、その他は実在するものとは一切関係ありません。

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