郭斗の拳 第一部


一話 二話 三話 四話 五話 六話 七話
八話 九話 十話 十一話 十二話 最終話


郭斗の拳(1)
登場人物 臥龍兄弟

 199X年、世界は核の炎に包まれた・・・・・・
 などということはなかった。

 これは、その数年後の話・・・・・・

「郭斗ぉ!どういうこと、これ!?」
「ん?決まってる。健斗の出る、新人戦のだな・・・・・・・」
「そんなのは分かってるよ!問題は、どうして登録用紙が4枚もあるのかって!しかも・・・全部違う種目ってのは何!?」
「しょうがないじゃないか。『総合格闘技』なんて種目がない以上。」
「だからって・・・なんで空手に柔道にボクシングにレスリングなんて、4つも・・・・・・」
「相撲と剣道とフェンシングやらされなかっただけ、ましだと思え。」
「できるかそんなのっ!」
「安心しろ。日程は重ならないから。」
「そういう問題じゃないよっ!」
「それに、今のお前なら、4つ全てに対応できるはずだ。そういうもんだろ、総合格闘家って。」
「どういう理屈なの、それは!」
「ま、とりあえずだな、一週間後にボクシングだからな、覚悟しておくんだな。」
「そ、そんなぁ・・・・・・」


・・・・・・「伝説」は、ここからはじまる。


郭斗の拳(2)
登場人物 臥龍兄弟+α

 1週間は、あっという間に過ぎ・・・・・・
 ここは某所にある体育館。

「たしかライトフライ級だよな、健斗は。」
「ん?そうだけど。」
「ライトフライか、たしか、JACからは健斗以外にはライトフライは・・・・・・」
「僕だけだけど?」
「うん、なら良かった。同門対決なんて、おもしろくもないしな。」
「あ、そろそろ、受付の時間だわ、じゃ、僕、行くんで。」

「さて・・・行ったか。そういえば、健斗以外の、今日の出場者は・・・・・・」
 資料をチェックする郭斗。リストを見ていた手が、ふと、止まる。
「鳳凰天昇(おおとり・てんしょう)に白井虎獅狼(しらい・こじろう)・・・所属団体は・・・『KDD』だあ!?奴等が来るのか!?」
「そういうこった。」
「・・・・・・!!」

 ついに始まる高等学校ボクシング新人戦!
 しかし、健斗の前に謎の強敵が立ちはだかる!「KDD」の正体とは?そして、郭斗の前に現れた謎の男の正体は?
 次回を待て。


郭斗の拳(3)
登場人物 会長2人+α

「貴様は『KDD』会長の・・・!!」
「ふっ、説明的なセリフをすまぬな。」
「・・・相変わらずだな。」
「何がだ?」
「そのボサボサな頭。見てて鬱陶しい、なんとかしろって、俺が何度言った?」
「・・・そういう貴様こそ、そのカーテンみたいな頭を何とかしろ。」
「・・・で?何しに来た?」
「ん?分かってんだろ?」
「まあ、大抵はな・・・どうせ格闘技系全種目の制覇、とか馬鹿なことを言い出すんだろ?」
「人のこと言えるのか?どうせ目的はそっちも一緒だろ?」
「俺は言える。それくらいのメンバーは、そろえてあるさ。」
「・・・偶然だな、こっちも同意見だよ。」
「ほお・・・」

「・・・・・・受付終わったのに・・・戻れる雰囲気じゃないよ、これじゃ・・・・・・」


郭斗の拳(4)
登場人物 臥龍兄弟+α

「じゃ、俺はミーティングあるんで、な。」
「ああ・・・・・・」

「ん?どうした、健斗?」
「郭斗?今の人は?」
「ああ・・・『KDD』って団体があってな、ちょうどウチみたいなチームなんだが、奴はそこのディベロッパーだ。」
「はあ・・・で、そのKDDがなんなの?そこから、今日の大会に出る人がいるの?」
「ん・・・もうトーナメントの抽選は終わったのか?ちょっと対戦表見せてみろ・・・あ、このふたりがそうらしい。」
「えっと・・・鳳凰天昇に白井虎獅狼・・・」
「運がいいな。準決勝まで行かなきゃ、このふたりとはぶつからんか。」
「順調に行けば、準決勝で白井さん、決勝で鳳凰さんとだけど、そう決め付けるわけにも・・・この、おふたりが出てくるって、決まったわけでもないんじゃ?」
「いや、出てくる。」
「はあ・・・・・・」
「他は・・・まあ、このカードなら、健斗の方は、準決勝までは大丈夫だろ。」
「・・・・・・本当に?」
「ああ。月並みな言い方だが、これまでやってきたことを全部ぶつけりゃ、勝てる。」
「うん・・・・・・。」

 ・・・・・・放送が流れる。

「お、健斗、呼ばれてるぞ。」
「あ、うん、じゃ、行ってくる。」
「ちょっと待った。」
「ん?」
「俺も行く。セコンド必要だろ?」
「・・・・・・え?」
「じゃ、行くぞ。気合入れろ!」
「はい!」

(さて・・・健斗にはああ言ったが・・・・・・)

(ひとつだけあるんだよな・・・問題が・・・・・・)


郭斗の拳(5)
登場人物 臥龍健斗+α

「いいか、余計なことは考えるな。ただ突っ込んで、一発殴る。それだけでいい。わかったか?」
「う、うん・・・」
「じゃ、行ってこい!」

 健斗、リングに立つ。

(こ、これは・・・)
(いつもの部活の練習は、全く違う・・・・・・)
(空気が、熱気が、圧力が、全てが・・・・・・)
(これが、実戦か・・・・・・)

 カーン!

 ゴングとともに突っ込んでくる対戦相手。
(わっ、わっ、わっ!ちょ、ちょっと待って・・・・・・)

 一方的に打たれまくる健斗。
 防戦一方で、とても反撃できるようにも見えない。

「・・・・・・あーあ。やっぱりか。」
(うわっ!わっわっ!)
「能力的にはこのクラスなら申し分ないはずなんだ、健斗は。問題は・・・・・・」
(ちょ、ちょっと、待っ・・・・・・)
「実戦ゼロなこと・・・単なるケンカも含めて、全く経験ないんだよな・・・・・・」

「せめて、1ラウンドもってくれれば・・・・・・」


郭斗の拳(6)
登場人物 臥龍兄弟

 健斗の格闘経験の不足から、一方的な展開になっている第一試合。
 そして、第1ラウンドも後半に入る。

「まだ、いいのは一発ももらってない・・・が、それも時間の問題だな・・・・・・」
 バキッ!
「ほら、言ってるそばから・・・あらら。」
 ばったり。
「ちょっとまずいな・・・だが・・・とりあえず立て!立つんだ健斗!!」

(・・・・・・あれ?)
(倒れてる・・・のかな?)

(なーんか・・・気持ちいいや・・・・・・)
(このまま朝まで寝てたい気分だな・・・・・・)

(・・・なんか、遠くの方で声が・・・・・・)
(・・・・・・立て?)
(立てって・・・言ってるの?)

(・・・立たなくちゃ・・・・・・)

「・・・よし!早くファイティングポーズをとるんだ!」
「え、ああ・・・・・・」

 カーン!
 ここでゴング。第1ラウンド終了。

「健斗?」
「ん・・・?」
「しゃべるな、そのまま聞くんだ。」
「・・・・・・」
「1ラウンド終わって、たぶん慣れたと思う。」
「・・・・・・」
「『戦いの場』っていう、一種独特の雰囲気に、な。」
「・・・・・・」
「1ラウンド目のことは考えるな。こっからが本当の勝負だ、そう思え!」
「・・・・・・(どういう意味?)」
「行ってこい、そして驚いてこい!」
「・・・・・・(だから・・・わかんないよ、郭斗が何言ってるのか・・・・・・)」

 圧倒的不利な状況、それは1ラウンド目の様子が何よりも物語っている。
 健斗ははたして勝利できるのか?郭斗の言葉の真意は?
 謎が謎を呼ぶ次回を待て。


郭斗の拳(7)
登場人物 臥龍兄弟

 第2ラウンド。
 おそらく、それほど入っていない観客のほとんどが、前のラウンドとそれほど変わらない展開か、あるいはこのラウンドでの決着を予想していたことであろう。
 臥龍郭斗も、そのひとりであった。ただし、彼の予想の中で、たった一部分だけ、他の観衆と大きく異なる部分があった。

(・・・・・・見える!)
 相手の攻撃を、あるいはかわし、あるいは防御する健斗。
 前のラウンドとは、まるで別人であった。

「・・・・・・思ったとおりだ。」
 ほくそえむ郭斗。
「前のラウンドで、健斗の奴は、完全に場の雰囲気に飲まれていた・・・経験不足から来るものだから、しょうがないといえばしょうがないんだが。」

(見える!相手の呼吸、筋肉の動き、踏み込み、殺気・・・全てが見える!)

「おかげで、恐怖感や緊張感、ストレス、それら全てに飲み込まれかけていたんだ、さっきまでの健斗は・・・。」

(JACの先輩たち、JACでやってきたこと、これまでの積み重ね・・・それに比べれば、おまえなんか、おまえなんか・・・・・・!)

「開放されるには、1ラウンドもあれば十分・・・それまでにノックアウトされちまうかもしれないのだけが問題だったんだが、それさえ抜ければ、もう・・・・・・」

(・・・・・・見えた!そこだぁ!!)
 BAGOOOM!!!


「よくやった、終わってみれば2ラウンドKO勝ちじゃないか、明日もこの調子で・・・・・・」
「・・・・・・」
「どうした、健斗?」
「・・・・・・僕・・・・・・」
「『いつの間にここまで強くなったのか』か?」
「え?」
「一生懸命やってる間は全然意識できなくて、ある日突然、気付く、自分がやってきたものの莫大さを・・・そういうもんだ。努力とか、積み重ねってのは。」
「・・・・・・」
「まあ、今日はゆっくり休んで、明日に・・・・・・」

 突然、隣のリングから歓声が挙がる。

「こいっつあ・・・とんでもない奴を連れてきやがったな、あの野郎・・・・・・」
「・・・・・・」

 そこには。
 試合開始より30秒で相手をマットに沈めた「KDD」の白井虎獅狼の姿があった。

「・・・・・・鳳凰さんというのも・・・・・・」
「これくらいの実力はあると思って、間違いはないだろうな。」
「・・・・・・」


郭斗の拳(8)
登場人物 臥龍兄弟+α

 健斗がトータルファイターとしての第一歩を踏み出してから数日がたった。
 1日1試合の割合でトーナメントは進み、彼はその全てに勝利していた。

「たった1度の勝利がカトンボを獅子に変える・・・勝利ってのは、そういうもんだ。もはや、並みの奴じゃ、逆立ちしたって勝てねえよ・・・・・・」

「KDDのおふたりも順調みたいですね・・・・・・」
「だな・・・何もなければ、準決勝と決勝の相手は、ほぼ決まりだな。」
「白井さんと・・・鳳凰さん、でしたよね?」
「ああ。あのふたりに関しては、俺もよく分からん。まあ、全力でぶつかっていくだけだな。」

「よお!」
「え・・・あなたは・・・・・・」
「・・・・・・出たな、ボサボサ頭。」
「人のこと言えるかカーテン頭・・・ほお、そいつが臥龍健斗か。うちの白井と、準決勝で当たる?」
「あ・・・はじめまして。」
「・・・・・・いい目をしてるな。」
「・・・・・・」
「ひとつだけ忠告しといてやる。もし白井倒すつもりなら、1ラウンドで決着つけるんだな。それ以上かかると、確実に負ける。」
「え?」
「まあ、白井の奴を1ラウンドで倒せる奴なんか、同世代のライトフライ級にはいないとは、思うがな。」
「どうして・・・そんなことを僕に?」
「ハンデだ。」
「・・・・・・」
「じゃ、俺は行くぜ。」

「・・・・・・なんだったんだろう・・・今のは。」
「さあな・・・ま、とりあえず、ああ言ってるんだ、遠慮なく1ラウンドKOしてやれ、健斗。」
「ああ!」

 様々な思惑をはらみつつ、運命の準決勝戦が幕を開ける・・・・・・


郭斗の拳(9)
登場人物 臥龍兄弟+α

 準決勝戦、第一試合。
 臥龍健斗VS白井虎獅狼。

「いいか、1ラウンドで決めるつもりで思いっきりいけ!」
「ああ!」

(郭斗があれだけの自信を持って「絶対に来る」と言い、本当に来たKDD・・・・・)
(その力を見てみたい・・・そして、僕の力が何処まで通用するか・・・・・・)

(それを試したい!!)
 ゴングと同時に相手に向かって突進していく健斗。

「・・・すごいラッシュだな、さすがは臥龍の弟といったところか・・・だが・・・まだ未熟だな。」

(さすがに強い・・・でも・・・・・・)

「よし、当たってる!1ラウンドで行けるか?」

 ラウンド終了間際。
 ラッシュをかけられ、半ばグロッキーに見える白井虎獅狼。
 容赦なくパンチの嵐を打ち込んで行く健斗。
 残り10秒。

(見えたっ!)
 必殺の一撃を放つ健斗。しかし・・・

「何!?」

 完璧に決まったはずのストレートは躱され、逆にフックが飛んでくる。

(ぐっ・・・)

「一度戦った相手には絶対に負けない、白井虎獅狼とは、そういう男だ」
「戦闘中に、相手の癖を覚え、反撃するには1ラウンドもあれば十分ってことか・・・・・・」

(見えなくなった・・・どこに打ち込めばいいのか・・・全然わからない・・・・・・)

 かつてない強敵と出会ってしまった臥龍健斗!動きを読み取られた今、彼に勝機はあるのか!?


郭斗の拳(10)
登場人物 臥龍兄弟

 第1ラウンド終了時、ポイントにおいては明らかに健斗の方が勝っていたであろう。
 しかし、そんな物に意味がないことは、当人達が良く知っていた。

「いくら動きが読まれてるといっても、相手より速度で上回ることができれば、別に大した問題じゃない。全力で行け!」
「はい!」

 理論上はその通りである。が、その事がいかに困難かは、二人ともよく解っていた。

 第2ラウンド開始とともに、相手めがけて一気に突っ込む健斗。
 その姿に、居並ぶ観客は、第1ラウンドの再現を想定したかもしれない。
 が、その後の展開は、観客の想像をおおいに裏切るものとなった。
 健斗の出すパンチはすべてかわされ、防がれ、つぶされていた。一方、白井のパンチは、的確に健斗にダメージを与えていく。

 その状態で、3ラウンドまで持ったのは、奇跡かもしれない。
 しかし、奇跡はいつまでも続かない。

「健斗・・・何も言わなくていい、ただ聞け。」
「・・・・・・」
「あきらめるな、生きてる限り、チャンスはある・・・俺が言えるのは、それだけだ。」

「じゃ、行ってこい!」

 絶体絶命の臥龍健斗。
 郭斗の言う「チャンス」とは何か?
 そして、この戦いの行方は?
 次回を待て。


郭斗の拳(11)
登場人物 臥龍兄弟

 気がついたら、ベッドの上にいた。
 見覚えのない天井が、健斗を見下ろしていた。

「お、生きてたか。その様子なら、案外元気みたいだな。」
「・・・・・・郭斗、ここは?」
「医務室って奴だ。」
「・・・・・・試合は?」
「4ラウンドKO。お前の負けだ。」

 ・・・・・・徐々に記憶が蘇ってきた。

 4ラウンド開始早々、白井虎獅狼のラッシュがはじまった。
 上下左右、あらゆる方向から飛んでくるパンチになすすべもなく、ただ打たれるだけであった。

 しかし、次の瞬間。

「そうだ・・・あの時、『見えた』んだ・・・一瞬だけ・・・・・・」

 倒れたのはひとりだけではなかった。
 白井の左ストレートにあわせて、クロスカウンターが叩き込まれたのである。

「・・・でも・・・どうして・・・・・・」
「いつも言ってるだろ?『相手が勝ち誇った瞬間、すでにそいつは敗北してる』って。」
「・・・・・・」
「むこうは、これで勝ったと思い、とどめをさしにきた、そこに隙が生まれたんだ。」
「・・・・・・」
「しっかし・・・状況が悪すぎたな。いくら何でも。」

 健斗に蓄積されていたダメージが、失われていたスタミナが、温存されていた白井のスタミナが、必殺の一撃を致命傷にまで至らされることを許さなかったのであった。
 カウント9で立ち上がった白井。一方、最後の一撃に全てをかけていた健斗に、立ち上がるだけの気力は、もはやなかった。

「・・・あ、そうだ。」
「?」
「俺はちょっと、用があるんで、行くわ。」
「・・・・・・」
「鳳凰天昇の試合も見ておきたいしな、じゃ、な。」

 部屋には健斗だけが残された。

「・・・・・・負けたのか・・・・・・」

 完敗であった。
 悔しさはない。全力を尽くし、なおかつ敗れた。それで十分であった。
 しかし、それにも関わらず、胸にこみあげてくるものが・・・それが何なのか、わからない。

「・・・・・・その涙を全部飲み込め、そうすれば、お前はもっと強くなれる・・・・・・」

 沈黙、そして慟哭。


郭斗の拳(12)
登場人物 臥龍郭斗+α

 準決勝第二試合。
 ここで、郭斗は、信じられない光景を目にすることとなる。

「・・・・・・なんてこった・・・・・・」

 彼が見たものは、リング中央で無残な屍をさらす鳳凰天昇の姿であった。
 むろん、鳳凰が弱いわけではない。ここに来るまでの間、ずっと1ラウンドKOを続けてきたのだ。
 まさか自分がその立場に立とうとは、想像もしていなかったに違いない。
 それは鮮やかな1ラウンドKO劇であった。

 そして、数日後の決勝戦においては、白井虎獅狼も同じ運命をたどることになる。

 相手は全く無名の選手であった。
 ひとつだけ確かなことは、彼と対戦した選手が、口をそろえてこう言うことであった。

「氷のような目をした男・・・」

 その男の名は・・・・・・


郭斗の拳(13)
登場人物 臥龍健斗+α

 学校へと続く、いつもの道。
 ひとりの少年が歩みを進めていた。
 彼の名は、臥龍健斗。

 あまりに、いつもと同じであった。
 昨日まで、あれほどの激戦を繰り広げていたのが、
 全て夢のようにも感じられた。

(・・・・・・)

 あれから「KDD」のふたりとも話す機会があった。
 白井虎獅狼は健斗と同じくトータルファイター志望で、
 鳳凰天昇はキックボクサーを目指しているとのことであった。

「勝つには勝ったが、内容は完敗だった・・・次に会う時までに、俺はもっと強くなる。だから、君も、もっと強くなれ。」

 そう、誓いあった強敵(とも)は、今ごろ何をしているのであろうか?
 今の自分のように、あまりの日常さに驚きを感じながら、学校にでも向かっている最中であろうか?
 それとも、次の大会に向けて、早速トレーニングをはじめているのであろうか?
 そんなことを思いながら、校門にさしかかった、その時。

「あ、あの・・・・・・」

 見覚えのない顔であった。白桜の女生徒であろうか?しかし、同級生の顔すら、いちいち覚えていられるものではない。健斗のように、色恋沙汰にあまり興味のない者にとっては、なおさらである。

「えっと・・・あなたは・・・・・・」
「・・・・・・これ、読んでください!」

 顔を真っ赤に染めながら、何かを健斗に手渡す。

「あの・・・これは?」
「試合、ずっと見てました・・・とっても、かっこよかったです!!!」
「・・・・・・え?」
「・・・・・・失礼しますっ!!!」

 そのまま走り去ってしまった。
 改めて、渡されたものを見る。
 ピンクの封筒に、ハートのシールで封がしてある。

「・・・・・・これって・・・もしかして・・・・・・」

 少女の姿はすでにはるかかなた。

「・・・・・・ちょ、ちょっと待ってよ君!こんなの突然もらっても、困る・・・・・・」


 臥龍健斗15歳。
 彼の青春時代は、まだはじまったばかり。
 恋愛だけは、自学自習。

(郭斗の拳「第一部」完)



夢ノ宮奇譚は架空の物語であり、そこに出てくる人名、組織、その他は実在するものとは一切関係ありません。

[PR]動画