臥龍伝説 〜郭斗の拳外伝〜


第1話 第2話 第3話 第4話 第5話 第6話 第7話
第8話 第9話 第10話 第11話 第12話 第13話 最終話


第1話「find out」
登場人物 土佐&山口 著 でっどうるふ

 某月某日PM06:00、××ドーム前。

「……いったいどうしたんですか、こんな時間に突然……」
「おう、すまんな、だが、どうしても土佐ちゃんについてきてほしかったんだ、今回に限っては。」
「どういうことです?」
「話は後だ。とりあえず、俺についてきてくれ。」
「って……ドームに入るんですか?私はチケットは持ってない……」
「なに、用意してある。」
「……まさか、野球観戦につきあえ、なんてオチじゃないでしょうね……って、山さん?グラウンドとは方向が違うんじゃ……」
「いいから、黙ってついてこい。」
「……」

「そろそろ、話してくれてもいいんじゃないんですか?今日の用件。」
「そうだな、だが、その前に……これを見てくれないか?」
「?」
「この前、高校1年生限定のボクシング大会あったの知ってるか?」
「……ああ、健斗君が出てたって。確か、彼はライトフライだったような……」
「その写真の奴は、そのライトフライの優勝者だ。」
「……たしか、名前は……」
「高天大和(たかま・やまと)だ。」
「……その彼が、一体……」
「まあ、もうすぐ着く。そうすりゃ、分かる。」


「……さ、ついたぜ。」
「こ、これは……!!」


第2話「TRIP MACHINE」
登場人物 土佐&山口+α 著 でっどうるふ

「こ、これって……」

 砂が敷き詰められた八角形の広場。周囲には、観客の歓声。悲鳴。怒号。
 そして、その中央には。

「あれって……沢三成と虎錦じゃないですか!」

 現役のトッププロレスラーと、現役の横綱が戦っていたのである。端から見ても、シュートなのは明らかであった。
 無論、「表」じゃ、絶対にありえない顔合わせである。

「どうして……こんなのが、こんなとこで……ドームの……えっと……」
「地下5階だ。まあ、あまり深く考えるな。ここはこういう所だと、単純に思っててくれた方がいい。」
「……どうして、山さんがここのことを?」
「そのあたりは……奴に説明してもらった方がいいかな?」
「『奴』?」


「よう、来てやったぜ。」
「え……山さん?もしかして、『奴』ってのは……」
「ああ、コイツのことだが?」
「え……どうして山さんが……」


第3話「HERO」
登場人物 土佐&山口&魔斗 著 でっどうるふ

「あなたは……川田恣!」

 土佐の目の前に現れたのは、誰あろう、自称天才科学者であった。

「違うよ、土佐ちゃん。」
「へ?山口さん?」
「コイツは魔斗災炎ってんだ。ここじゃな。」
「ま、そういうことぢゃ。」
「……?」
「まあ、話すと長くなるがの……おっと。あっちの方が決着ついたみたいじゃな。」

 魔斗の指さした方では、地に倒れ伏した沢を、虎錦が「四股」の要領で押しつぶさんとしていた所であった。

 そして、足が振り下ろされる。

「勝負ありっ!!!」

 会場を大歓声が包み込んだ。

「すごいぢゃろ……見る奴が見れば、まさにここは夢の世界ぢゃな。」
「川田……いえ、魔斗さん?」
「ああ、分かっておる。ここがどういう場所か、そして、ここに自分を呼び出したのはどういう理由か、じゃろ?」
「……ええ。」
「今の死合は見ておったか?」
「……」
「まさに、究極の他流試合といったところじゃな。互いに、限定されたルールのもとでは最強を極めた両者が、ルール無用の環境ではどれだけやれるか。そして、もっとすごいのは……」
「……?」
「あのふたりでさえ、次のメーンイベントの前座にしか過ぎんということじゃ……」
「え?」
「ほれ、もうすぐ入ってくるぞ。ここにいる観客の全てが待ち望んでいる男がな。」
「……」

 そして、「奴」はやってきた。

「チャンピオン・ジーザス=クライストの入場です!」


第4話「I'm on fire」
登場人物 土佐&山口&魔斗 著 でっどうるふ

「チャンピオン・ジーザス=クライストの入場です!」

「ジーザス?まさか本名じゃないとは思いますが……」
「に、したって、なんちゅう名前だ……全く。」
「全くじゃ。『夢の宮』に、神殺しをめざしている格闘技の流派があると聞いたことがあるが、一遍そいつらと対決させてみたいのう。」

「……そして……チャレンジャー!今世紀最後の破壊王!飛騨篤!!!」

「ひ、飛騨篤!?」
「ふむ、名前ぐらいは知っておるか。」
「当然ですよ!日本人にしてはじめて、打撃技オンリーの大会『S−1』で優勝した方ですよ。」
「その通り。我輩の見たところ、日本で10人ばかり強いのを挙げたら、確実に入ってくるであろう男ぢゃ。」
「打撃系か?うちの芥端よりも強いのか?」
「桁が違いますね。芥端さんもお強いですけど、私から見れば、まだ未熟ですね。あと10年も鍛練すれば……」
「そうか。じゃ、土佐ちゃんなら、どうだ?」
「はい?」
「あの飛騨とやりあって。俺だったら、さっきの10人の中に土佐ちゃん入れるが?」
「買い被りすぎですよ、そうですね、拳銃持っていいというのなら、どうにか勝ち目なくもないですけど。そういう山口さんは?」
「そうだな……腕相撲ならどうにか……」
「……全く。自分が世界最強だ、ぐらいの気概を見せんかい!」

「さて、チャンピオンについては……」


第5話「Chaos Age」
登場人物 土佐&山口&魔斗 著 でっどうるふ

「チャンピオン……ジーザス=クライストとか言ってましたね。」
「どう見る?」
「……170前後、わりと小柄ですね。均整はとれていますが……」
「ん?」
「……注射(う)ってますね。ステロイドか何か。」
「やっぱりそう思うか?」
「ええ……かといって、そればかりでもない。科学的に計算しつくされた結果といった感じですか。」
「うむ。やはりそうか……」
「ところで、彼の格闘スタイルはなんです?魔斗さん、ご存知ですか?」
「ああ。一応、軍隊格闘術(マーシャル・アーツ)ということになっておる。」
「マーシャルアーツか……」
「それよりも、だ。土佐ちゃん?気付いてるか?奴の……」
「……ええ、大体は。」

「はじめっ!!!」


第6話「Quick Master」
登場人物 土佐&山口&魔斗 著 でっどうるふ

「はじめっ!!!」

「さて……はじまったが、土佐ちゃんだったら、あの飛騨とどう戦う?」
「そうですね……打撃専門の相手に殴り合いを挑むのは愚の骨頂ですね。平凡ですが、タックルからグラウンドに持ち込むのがセオリーでしょうね。ただ……」
「むこうもそれは十分承知、と。」
「ええ……下手に飛び込むと、カウンターが待っているはずです。」

 飛騨の放つ牽制のローキックをクライストが防ぐ。
 しばらく、こんなシーンが続く。

「いつもながら思うのだが……格闘家という連中は、どうしてあんなに速い蹴りを防御することができるんだ?我輩には、それが不思議でならぬ。」
「……まあ、本来ならそうなんですよ。格闘技やってる方のキックのスピードともなると、常人の反射神経を平気で凌駕します。むろん、格闘技をやってる方なら、反射神経とか動体視力も飛躍的に上がるのですが、それにしても限界があります。」
「では、どうやって?」
「読むんですよ。」
「へ?」
「空気の流れ、筋肉のわずかな動き、踏み込み、殺気……そういった物から、相手が次にどんな行動をしてくるか、ある程度の予測はつくんです。」
「そんなにうまくいくのか?」
「理論上はね。そして、これは別に格闘家に限った話ではないんです。例えばプロ野球選手。彼らは、ボールを目で認識してからバットを振っているわけじゃないんです。」
「なぬ?」
「そんなことをしてたら、人間の動体視力では確実に振り遅れます。しかし、現に彼らは彼らは時速150kmのボールをバットに当てて150m飛ばすことができるわけですよ。それはつまり、ボールの飛んでくる位置を、ピッチャーの動きから予測しているのに他ならないんです。」
「ううむ……スポーツか。研究の対象としては実に興味深い。」

 飛騨がミドルキックを放つ。
 が、その動きはクライストに読まれていた。

「何!?」
「ガードじゃなくてキャッチ……ちょうど足が伸び切って、勢いが殺されたところを……」
「キックボクサーの弱点を知り尽くしてやがる……」

 こうなったら試合の流れはクライストに圧倒的に有利になる。
 このまま急所を狙うか、あるいは倒してグラウンドの展開に持っていくか。
 大勢は決した。観客の誰もがそう思った。

 次の瞬間。飛騨の体が宙に舞った。


第7話「I really want to hurt you」
登場人物 土佐&山口&魔斗 著 でっどうるふ

 飛騨の体が宙を舞った。
 クライストに捉まれた左足を軸にして体を回転させ、側頭部を蹴らんとする。

「延髄斬り!?」
「無謀な……」

 日本刀の切れ味にたとえられた飛騨のハイキックである。それが頭部に命中すれば、ただではすまない。
 一発逆転をかけた戦法だが、さすがに相手もそんなのを食らうわけにはいかない。
 頭をかがめて躱すクライスト。
 しかし。

 瞬間、会場の誰もが息を飲んだ。
 クライストの頭を越えたと思われた飛騨の右足が、頭上で止まったのだ。
 そのまま垂直に落下する。

「な……!!!」

 強烈極まりない踵落としをまともに食らい、クライストは倒れた。

「今のは……?」
「どう説明していいか、わかりませんが……まず、最初の、足を取られての延髄斬り。あれからいって、明らかに奇策です。相手の意表を突く、という意味では有効かもしれませんが。」
「ああ……だが、躱された。」
「はい。しかし、おそらく飛騨選手は、躱されることまで計算していたんですよ。そうでなくては、あんなに見事な踵落としは、まず不可能です。」
「計算していたというのか?」
「ええ……おそらく。もしかして、最初にミドルキックを放った時からの計算だったのかもしれません。『達人は一太刀で殺れ』というのを完全に体現した奇策です……しかし……」

 完全にダウンしたと思われていたクライストがゆっくり立ち上がった。
 そして。

「まだ……互角みたいですね……」

 飛騨は左足を引きずっていた。
 あれだけの短い時間の中で、クライストは捉えた足にしっかりとダメージを与えていたのである。


登場人物 酒神.了&………? 著 煉

「へぇ、飛騨の奴、面白い事するじゃないか」
「…………」
「なぁ、お前ならどっち優勢と見る?」
「聞くまでもありません。ジーザス優勢です」
「まぁ、やっぱそう見るよな。じゃ、どうしてなのか説明してみな」
「……試してるのですか?」
「試してるんだよ」
「…(溜息)…飛騨の攻撃は一見派手な致命打に見えますが、威力はありません。
 蹴りと言うのは遠心力を利用してこそ最大の威力を発揮する物です。蹴るための力も重要ですが、それ以上に重要なのは」
「シフトウェート(体重移動)……」
「はい。
 あのようにトリッキーな攻撃は、奇襲には向いていますが。躰が固定されてない状態では、当たりはしても十分な体重が乗らず。威力も低くなります。
 あの状況なら、最初の回し蹴りで側頭部を蹴り抜こうとするべきです。そうすればかわされた所で逆回りの蹴撃へと繋げます」
「……正解だ。さすがだな」
「あれでは『日本刀並の切れ味』と言われる蹴りの威力も半減してしまいます。それに……」
「勝負を急ぎすぎてる」
「はい。
 派手な技に捕らわれ、相手を倒すための手順が足りません。
 このような序盤であるなら、相手を倒す事よりも戦力を削ぐことに力を注ぐべきです。
 一撃必殺と言うのは、相手との実力差あってこそ成立する物です」
「お前なら、あの二人とどう戦う?」
「……ジーザスは具体的には浮かびません。情報が足りませんから。
 まず、セオリー通りに様子を見ながら軸足を攻めて打撃の威力を半減させ、足を止めます」
「では、飛騨は?」
「ジーザスが取った戦法と基本的に同じです。ただ、反撃を防ぐために出来るだけ一瞬でダメージを与えて躰を離します。後は……」
「攻めてきた足を殴る……だろ?」
「はい。これもジーザス同様、のびきった瞬間を狙います。狙いはアキレス腱」
「OKだ……さすがは俺の最も優秀な生徒だよ」
「でも……」
「これだけで終わる程度の奴がチャンプに挑戦出来るとは思えない……」


第8話「KEEP ON MOVI'N」
登場人物 土佐&山口&魔斗 著 でっどうるふ

「どう見る?」
「互角だと思いますが……6:4で飛騨選手ですね。」
「ほう、それは?」
「クライスト選手をよく見てください。」

「……目が……飛んでやがる……」
「ええ。明らかに踵の影響でしょうね。どうやら、狙ったのは脳天じゃなかったみたいですね。」
「……テンプル(こめかみ)か?」
「ええ……そこを狙ったのなら、一撃であの状態まで陥るのも納得がいきます。どうやら、あの踵は一発KOを狙ったものじゃなかったみたいですね。一撃で倒せなくても、朦朧状態にしておいて、そこから回復しないうちに一気に攻める。まさに必勝の戦術です。」
「なるほど、片足ぐらいのハンデは大したことないというのか……」

「本当にそう思うか?」
「……え?」
「奴を見てみろ。」

「……!?」


第9話「WEIGHTED ACTION」
登場人物 土佐&山口&魔斗 著 でっどうるふ

「よく見てみろ、クライストの奴を。」

「……あの動きは……」
「ああ……意識が飛びかけてる奴のそれじゃねえ……だが、あの目は……」
「ええ……本来なら、いつKOでもおかしくないはずです……」

「さて、もうあの試合には興味がない。」
「え?どういうことです?」
「かたや足を負傷、かたやピンピンしてるのと同じ状態とあっては、もはや決まったも同然ぢゃ。」
「しかし……」
「人間は苦痛には強いが、快楽には意外にもろい、そして、気を失いかけている時というのは、眠けを必死で耐えているのと同じ状態で、落ちてしまえばこれほど快楽といえる事はない……そう言いたいのぢゃな?」
「……ええ。」
「とりあえず、こいつを渡しておく。」
「これは……『TOP SECRET』……魔斗さん!?」
「何だか知らねえが、相当危ねえ橋を渡ったらしいな……」
「なに、この天才にとっては、大した問題ではなかったわ。」
「それよりも、なんです?この資料は。」
「ああ……とりあえず、見てやってくれ。今、そこで戦っているジーザス・クライスト、そして、高天大和の正体が、そこにある。」
「?どうしてここで高天大和の名前が……」
「とにかく見てみろ、話はそれから聞く。」

 パラ……

「……『超人計画』……!?」


第10話「Ultimate Power」
登場人物 土佐&山口&魔斗 著 でっどうるふ

「さて、こいつを開く前に、ひとつ謎かけをしておこう。」
「なんでしょう?」
「貴様が、とある人物の能力を短期間に増強する必要ができたとする。だが、理由あって、以下の方法を使うのは禁止させてもらおう。」
「それは?」
「機械化、薬物、生物学的改造……すなわち遺伝子や神経系などに直接手を加えるもの、オカルト分野……すなわち霊能力や魔法などといったもの、以上ぢゃ。むろん、普通にトレーニングする、などというのは論外ぢゃ。」
「……そんなのが可能なんですか?」
「まあ、答えは、その資料を読み進めていけば自然にわかるぢゃろう。」
「……」

 ……パラ……

「……サイキッカー及びサイボーグとの性能比較……」
「うむ、例えばだ。貴様らだったら、サイキッカーと相対した場合、どうする?」
「……接近戦を挑むのは無謀ですね。彼らは、テレパシーでこちらの動きを読み、サイコキネシスで攻撃してくる。単純ながら、極めて強力な戦法です。相手のテレパシーの有効範囲外からの遠距離狙撃ぐらいしか……」
「超能力だろ?こちらの精神力が、相手の精神力を上回れば跳ね返すことも……できるんだがなあ。」
「理論上はそうですけどね。」
「ああ……俺の知り合いの知り合いぐらいにも何人かサイキッカーいるがな。奴らの精神力……というか、集中力?ありゃ、相当なものだ。瞑想中に足の裏に釘さされても脳波に変化なし、ってぐらいだ。」
「その通り。サイキッカーを潰すのは容易ではないのぢゃ……が。まあ、見てみろ。」

「……こ、これは……」
「どうぢゃ?」
「……聞いたことはあります。一流の戦士ともなると、動きを頭に思い描くことなしに、体が勝手に動く……」
「土佐ちゃんもその領域まで行ってるのか?」
「私には無理ですけどね……まあ、たしかに、それならテレパシーを破るのは可能です。しかし、それよりも驚いたのが……」
「サイキッカーをも上回る精神力、ぢゃろ?」
「ええ……サイコキネシスを打ち消すことができるほど精神力の強い人間など聞いたこともありませんよ、私は。」
「俺だってな……まあ、生身の人間ならば、という限定はつくがな。オカルト関連の連中なら、あるいは知らんが……」
「言っておくが……」
「魔法的改造は禁止でしたよね?覚えてますよ。」

「……魔斗ちゃんよぉ?俺はさっきの答え、わかったような気がするぜ。」
「さっきの……と、いうと、能力強化の方法か?」
「え?山口さん?分かったんですか?」
「ああ。こいつしかない、と、思うんだが……」


第11話「life goes on」
登場人物 土佐&山口&魔斗 著 でっどうるふ

「で?その方法とは何ぢゃ?言うてみい。」
「ああ……『チャイニーズ・ミステリー』だろ?違うか?」
「!!」
「……その通り。東洋式鍛錬法(イースタン・ブースト)ぢゃ。」

「……西洋文明は、人体の強化を外的要因に頼る傾向がある。先に挙げた、薬物や魔法とかいったのは、全てその類ぢゃ。」
「んで、それに対し、アジア諸国の人間は、内面からの変化を何より重視する……だろ?」
「ああ。インドのヨーガ、チベットの山岳修行、そして日本の座禅。こういったものは、すべて、その個人が持つ『人間力』を鍛えるものだという。このあたりは簡単に言えば、アジア人が概して農耕民族であったのに対し、西洋人は狩猟・遊牧……」
「ああ、そのあたりはいいや、飛ばして。」
「……ぬう。まあ、よい。とにかく、人間力重視という点において、最も特徴的なのが中国ぢゃ。奴らはその点において徹底しておる。『医食同源』という言葉ぐらいは知っておるぢゃろ。つまり、奴らにとっては、日常生活からしてすでに人間力を鍛える場なのぢゃよ。」
「ん〜、そのあたりもいいや。」
「いちいち人の話を折る奴ぢゃな……」
「知り合いに皇龍寺にいた奴がいるもんでな。そんなのはわざわざ説明してもらわんでも知ってるさ。」
「それならそうと前もって言え!」
「……しかし、たしか魔斗さんの言ったのは、『短期間で人間を強化する方法』でしたよね?」
「ああ。」
「その点において、東洋式は明らかに問題があるのでは?なにせ、『ゆっくりと確実に』がモットーみたいなものですから。」

「ひとつだけ方法があるぞ。土佐ちゃん。出雲の奴から聞いた事がある。」
「……ええ、私も聞いたことぐらいはありますが……」
「ふむ、そこまで知っている中国拳法家が知り合いにいるのか?我輩も1度会ってみたいものぢゃ。」
「しかし、あの方法は……」


第12話「special energy」
登場人物 土佐&山口&魔斗 著 でっどうるふ

「あまりに問題がありすぎます。とても実用化できるものでは……」
「なに、テストケースなら、なんでもありぢゃ。文字通りの意味で、な。」
「……『経絡秘孔』ですか……」

「一応、聞いておくが、経絡自体についてはどれくらい知っておるのぢゃ?」
「まあ……大体は。東洋においては『気』という要素が重要な要素を占めているわけですけど。例えば、病気や老化などといった体の不都合は『気』の流れが滞っているために起きる現象とか言われたりしますね。」
「我輩は『人間力』と呼んでいるがな。どうも『気』という呼び方は好かぬ。」
「『気』の動きは、そのまま人体の動きにつながる……空手や柔道の使い手が精神修養を重視してるのは伊達じゃないってことだな。」
「ええ……ヨガや座禅といったものは、全てそれが目的ですね。しかし、中国人は、『気』と同じくらいか、それ以上に人体の強化を重要視したわけです。」
「うむ。『人間力』の循環を促進するためぢゃな。それ自体を強化したところで、体内に行き渡らなければ意味はない。」
「そして、その究極とも言えるのが経絡秘孔……『気』の循環経路である『経絡』の重要ポイントである『秘孔』を操作することにより、『気』の流れを自在に操る技術……」
「うむ。その通り。」
「確かに理論上はそれで人体を短期間で驚異的に強化することも可能ですよ。しかし、『経絡』自体がまだ未解明な部分が多い上に、分かっている部分についても、容易に扱うことはできない。下手に扱えば、容易に人間を死に至らしめるもの。あまりに危険です。」
「うむ……だがな。次のページを見てみるがよい。」

 パラ……

「こ、これは……」
「恐るべきは大国の力か……中国人が四千年かけて到達したところに、わずか数年で辿り着きおった。その国力と、なにより多額の予算の力でな。」
「……」
「なんとも皮肉なことと言わざるをえまい。東洋式は本来、西洋流の合理主義とは対極の思想から発展したものぢゃ。それが……」
「……ええ……」
「……おそらく、今戦っている、あ奴ひとりにも、小国の国家予算級の金が注ぎ込まれているんぢゃろうなあ……」

「……信じられるか?あの飛騨の奴がKOされやがった……」
「……」
「……打撃で……」

「勝負ありっ!!!」


第13話「ACROSS THE NIGHTMARE」
登場人物 土佐&山口&魔斗 著 でっどうるふ

 掌底が顎を捉える。
 ゆっくりと地に倒れ臥す飛騨。
 駆け寄る救護班。周囲からの大歓声。
 それを無視するかのように闘技場から姿を消すクライスト。

「……信じられるか?飛騨といえば、立ち技においちゃ日本で、いや、世界を見てもこれ以上の男はそうはいないかもしれん。それをだぜ?打撃で倒しやがった……」
「あれが……この資料の……」
「ああ。中国式増幅術の軍事利用実験体第一号・ジーザス・クライストぢゃ。」
「では、ここは……」
「いや、この闘技場自体は、純粋に格闘家の聖地として作られた場ぢゃ。たまたま軍に目をつけられただけに過ぎぬ。」
「……今の戦いにおいて、クライスト選手は経絡秘孔は使用していたのでしょうか?」
「それに関しては何とも言えぬ。使っていたかもしれぬし、いないかもしれぬが……」
「……打撃でKOしましたね。本来ならばグラウンドに持ち込むべきところを。」
「純粋な戦闘ならな。だが、これはあくまで『テスト』ぢゃからな。」
「……」

「さて、本題に入るか。こっちの資料を見てくれんか?」
「……これは……」
「中国式に目をつけたのは、なにも1つの国家のみに限った話ではないということぢゃ。今や、大国と言われている国家はほとんど研究しておる。」
「そして……『高天大和』も、そういったテストケースのひとつだと……」
「ああ。だが、どういう判断か、テストの場に使用しているのは高校の大会ぢゃがな。で、だ。」
「何です?」
「貴様らをここに呼び出した理由ぢゃ。」


登場人物 酒神.了&……? 著 煉

「フン……これが成果か」
「……の、ようですね」
「強くなるのにルールはいらん。薬物だろうが魔法だろうが、どういう手段を用いても強くあれば許される……それがここのルールだ」
「………………」
「ジーザスと接触しろ」
「え!?」
「アイツが自分の意志で強くなりたいと思っているのなら問題はない。だが……」
「そうでは無い場合は?」
「予め、登録は済ませておく」
「…………ハイ」


最終話「GO GO AGAIN」
登場人物 土佐&山口&魔斗 著 でっどうるふ

「……どう思います?」
「何がだ?」
「魔斗さんの言葉ですよ。どのあたりまで信じてよいのか、そして……」
「どのあたりまで俺たちが踏みこんでいいのか、だな。」

「……おそらく、高天大和はこの後も新人戦に投入されるであろう。貴様らには、それをチェックして、奴のデータを収集してもらいたい。我輩は残念ながら格闘技に関しては門外ぢゃ。貴様らの方が適任であろう。」
「データといいますと……身体能力とか、さもなくば……」
「任せる。が、そういったことも含めて、といは言っておく。」
「それはいいが、こっちからもひとついいか?」
「何ぢゃ?」
「どうしてこんな事に手を出す?お前さんにとって利になることなんかあるのか?」

「……正直言って信じがたいです。」
「ああ……同感だ。」

「最終的には『中国式』の軍事利用そのものについて廃止させようと思っている。」
「そりゃまた面倒な……しかしまた、どうして?」
「こっちのデータ見ろ。」
「……これって……」
「理論的ではある。幼少期から『中国式』を施せば、成長してから行うよりも高い成果を上げることは明らかぢゃ……が。」
「ええ……明らかに非合法的人体実験の範疇ですね。」
「少年とは将来国を背負って立つべき存在、つまり、国家の財産というべき存在ぢゃ……」
「……魔斗さん?」
「それをぢゃ。このような非人道的実験の材料に使用しようとしている。しかも、彼らが背負って立つ国家によってぢゃ。こんなことが許されていいのか!?」

「……あの魔斗災炎からあんな言葉が聞けるとは思わんかったしなあ……」
「しかし、放っておける問題ではないのも、また事実です。」
「次の新人戦の予定は?」
「えっと……そういえば、新人戦といえば……」
「ん?どうした?」
「……健斗君が出るのか……」
「……明らかに荷が重い相手だな。」
「ええ……」
「……ま、どうにかなるんじゃねえのか?」
「……ええ……」


……To be continued


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夢ノ宮奇譚は架空の物語であり、そこに出てくる人名、組織、その他は実在するものとは一切関係ありません。

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